【寄稿】人手不足調査 質的認識への転換を 島袋隆志氏


社会
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島袋隆志氏

 琉球新報社と県中小企業家同友会の調査では、人材不足対策に対して「手段がない」という意見が見られたが、常に打つ手はあるはずだ。働く側から見る企業の比較優位性は数的なものだけではない。企業内外で従業員と企業はどのような関係にあり、どのような形で「投資」を大事にしているのか。

 2023年3月期決算以降、上場企業など約4000社は男女の賃金格差などについて、いわゆる「人的資本の情報」として開示が義務化された。今後、企業はそれらを非財務情報として公開することが求められている。

 以前から多くの中小企業がHPやSNSなどを利用して自社の従業員の働く姿や声を発信している。「映え」でも「推し」でもいい。自社の社会的な存在意義とその中で若者に期待することは何かを突き詰め発信することで、若者とのつながりを模索するべきだ。

 国や県に対する要望や人手不足について感じていることで回答された「応募がなく原因が分からない」「教育現場で働く意義を伝えてほしい」といった記述からは、人材不足の原因や改善策が企業の現場で見つからずあえいでいる姿が表れている。

 その中でも、同業業界での連携や賃金処遇の改善策を探っている企業がある。そうした取り組みが効果を上げるための専門的かつ公的支援が求められる。

 政府の政策としても、ジョブ型社会や日本型職務主義への移行の言及がなされている。あらかじめ何をどのようにどの程度行うのか―という欧米に主流の職務記述に基づいた働き方は、日本のいわゆる「Z世代」には親和性があるだろう。

 なぜなら、この間、学校現場ではあらかじめ各授業・講義ごとの目的の提示、考えるべき課題提示と提出する課題レポートなどの内容と型(フォーム)に沿った思考の重要性が増してきているからだ。

 そのような学生からの照会は、一聞すると「自分で考えて」と言いたくなるような細かく基本的な内容だ。しかし、これはジョブ型社会の基盤として必要不可欠なものであり、イメージをより具体的に共有する手段なのだ。

 むしろ、ジョブ型社会では、企業経営者は自社の膨大かつ細かい職務を記述化し、従業員の各ポジション分を網羅して準備しなければならない。従来の「とりあえずやってみて慣れて」という、現場での実践を通じて訓練する「なんちゃってOJT」は許容されず、「何を、どのように、どの程度に」するのか―が厳密に要求される。これが雇用契約の前提条件ともなる。これらを準備するのは経営者の責務だ。

 職務概念が薄かった日本でも今後は、社内の各ポジションで求められる知識・スキルを職務記述化し、これを保有する人材をどのように選抜し採用・確保、そして定着を図っていくかを具体化していく必要がある。

 どのような知識・スキルを持った人材が不足し確保が必要なのか、人材と職務について数的認識から質的認識への転換が求められている。(沖縄大教授・雇用関係論)