児相、実親と元里親に「事実の歪曲的伝達」 悪感情を助長 沖縄<里親解除 調査報告書を読み解く>㊤


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児童が乗る車をのぞき込み、名前を呼ぶ元里親の女性と元里親の男性(左)=2022年1月4日、那覇市里親委託解除の経過

 小さな体をこわばらせ、里親の女性に必死でしがみつく児童。抵抗はかなわず、児童相談所の職員らの車に乗せられる。車は去り、児童の名前を繰り返す女性の叫び声だけが残った。2022年1月4日、生後2カ月から5年以上過ごした那覇市の里親夫妻宅から、児童が一時保護された。

 当時5歳の子どもと里親が引き離される様子は全国的に報道され、県内外で議論を呼んだ。県議会でも児相や県の対応に疑問の声が上がり、22年4月には外部有識者3人でつくる調査委員会が発足。調査委は今年2月、最終的な報告書をまとめ、概要版を報道陣に公表した。

 里親委託には親権者の同意が必要となる。県は一時保護の要因として「親権者である実親から里親委託の同意が得られなかった」と繰り返し説明していた。だが、本紙が入手した調査報告書の部分開示版は、児相が実親と元里親を対立させる行為を繰り返したと指摘している。

 元里親側のこれまでの説明によると、児相を通じて実親が面会を求めるようになったのは18年末ごろ。ただ、新型コロナウイルス流行の影響などにより、生みの親の存在を伝える「真実告知」や県外に住む実親との面会が先延ばしに。21年2月、元里親は児相担当者から「実親はすぐに引き渡すよう言っている。急に連れていくかもしれない」などと聞かされた。

 真実告知も終えていない中、突然の引き渡しと児童の精神的ダメージを恐れた元里親は21年3月5日、家裁に特別養子縁組を申し立てた。特別養子縁組は、実子と同じ親子関係を結ぶ制度で、実親の同意を得るのが原則だ。元里親はすぐに申し立てを取り下げ、調査報告書は一連の行動を「突発的に行ったもの」と見る。さらに「元里親は児相に謝罪をし、児相もまた、元里親を追い込んでしまった点の謝罪をしている」と記している。

 児相による実親への働きかけの問題点も挙げている。報告書によると、実親は21年10月、元里親への感謝と、児童のペースで引き取りたい、少しずつ交流をさせてほしいとの手紙を書いた。だが、児相はこの手紙を元里親には見せなかった上、元里親が半年以上前に申し立ててすぐに取り下げた特別養子縁組を、今も進行しているかのように実親に伝えたという。

 こうしたやり方を、調査委は「事実の歪曲(わいきょく)的伝達」だと批判。この時期に元里親側が養子縁組をしようとしていた事実はないとし「元里親への悪感情を抱かせる情報操作としか考えがたい」とした。

 21年12月6日には実親は「里親と直接話をしたい」と求めたが、児相は応じなかったという。同12日には、県外の実親宅を訪れ「元里親への悪感情を助長」させるような説明を行った。実親はその日、里親委託の同意を撤回し、翌13日、児相は里親委託措置解除の方針を決定した。児童は22年3月、一時保護所から県内の別の里親宅に移された。


 多くの人々が心を痛めた里親委託解除事案の問題はどこにあるのか。本紙が情報公開請求し、開示された調査報告書から読み解く。

 


<用語>里親制度

 児童福祉法に基づき、さまざまな事情で家族と離れて暮らす子どもを里親が育てる制度。都道府県が行う研修を受け、適格性が認められれば里親登録ができる。子どもが実親の元に戻れるようになるまでの間、家庭に迎え入れる「養育里親」や、専門的な援助を必要とする子どもを養育する「専門里親」、養子縁組を前提とした「養子縁組里親」などがある。里親委託には親権者の同意が必要となる。里親と子どもに法的な親子関係はなく、里親や子どもの意に反して委託が解除され、里親の元から子どもが離される事例もある。