【深掘り】師団中枢の不在「前代未聞の事態」、宮古沖陸自ヘリ事故 南西増強、防衛省は地元対策に腐心


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陸自宮古島駐屯地に配備されたミサイル部隊=2020年4月

 宮古島付近で陸上自衛隊のヘリコプターが行方不明になった事故で、南西防衛の一角を担う陸自第8師団のトップら中枢幹部が一斉に不在となった。「前代未聞の事態」(防衛省幹部)に、省内では衝撃が収まらない。防衛費は増額され、自衛隊の「南西シフト」は今後も続く。事故は部隊増強の前提となる地元の理解を揺るがしかねず、防衛省は対応に神経をとがらせる。

手探り

 ヘリには第8師団長の坂本雄一陸将(55)ら師団司令部の5人を含む計10人が搭乗していた。残った幹部が業務を継続しているが、防衛省幹部は「意思決定に支障が生じることは避けられない」とみる。

 師団長ら司令部幹部が同時に行方不明になった例はなく、対応は手探り状態だ。最悪の場合も想定し、防衛省内では後任の調整が進んでいるが、別の幹部は「安否が分からないと人事は決められない」との見方を示す。

 第8師団は熊本、宮崎、鹿児島3県の防衛・警備を担い、有事には沖縄県を含め南西諸島に派遣される。3月30日に就任したばかりの坂本師団長が地形などを確認するための飛行中に事故は起きた。防衛省関係者は「着任後ここまで早いタイミングでの視察は聞いたことがない」と驚く。

安全軽視

 自衛隊の戦闘機やヘリは事故を繰り返してきた。2018年2月には陸自のAH64D戦闘ヘリの主回転翼を固定する金属製ボルトが破断し、佐賀県神埼市の民家に墜落。乗員2人が死亡、民家の女児もけがをした。

 19年4月に青森県沖の太平洋で、航空自衛隊のF35Aステルス戦闘機が墜落。22年1月にも空自F15戦闘機が石川県の小松基地を離陸した直後、洋上に墜落した。事故のたびに地元に謝罪し、再発防止策を打ち出すが、根絶にはほど遠い。

 航空機や船舶の事故に対応する国土交通省の関係者は「自衛隊の事故は基本的な動作ができていないと思われる例が多い。安全軽視の風土が組織に染みついているのではないか」と指摘した。

警戒感

 政府は23年度から5年間の総額を43兆円とする方針だ。昨年末に安全保障関連3文書を改定し、他国の領域内を攻撃する能力の保有に踏み込み、そのための長距離ミサイルの開発を進めている。

 宮古島や石垣島、奄美大島には19年以降、陸自のミサイル部隊が置かれた。将来的に、他国領域を攻撃する能力を持った部隊が南西諸島に配備される可能性も取り沙汰される。沖縄県の玉城デニー知事は「明確に反対する」と述べ、住民側に警戒感が広がる。

 ある防衛省関係者は、「地元対策」と呼ばれる自治体や住民の理解を得るための対応は、沖縄では米軍関連が主だったと振り返る。南西諸島の部隊増強で「自衛隊に関しても地元対策がこれまで以上に重要になっている」と話し、事故が及ぼす影響に気をもんだ。

(共同通信)