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画期的な県の条例 沖縄差別と闘う姿勢が重要<佐藤優のウチナー評論>


この記事を書いた人 Avatar photo 仲井間 郁江

 画期的な条例が制定された。3月30日に県議会が賛成多数で可決し、翌31日に県が公布した「沖縄県差別のない社会づくり条例」だ。条例の前文ではこう規定する。

 <全ての人間は、生まれながらにして自由であり、かつ、尊厳と権利とについて平等である。/これは、世界人権宣言にうたわれている人類普遍の原理であり、また、基本的人権を侵すことのできない永久の権利として全ての国民に保障する日本国憲法の理念とするところでもある。/この理念の下、誰もが個人として尊重され、いかなる不当な差別も受けることなく、自分らしく生きることは、私たちの願いである。/しかしながら、不当な差別を解消するための長年の取組にもかかわらず、依然として、公共の場所やインターネット上で特定の個人又は不特定多数に向けて行われる特定の人種、国籍、出身等の本人の意思では変えることが難しい属性を理由とする不当な差別的言動、性的指向や性自認の多様性についての理解が十分ではないことに起因する偏見や不当な差別等が存在しており、私たちは、その解消に向けた取組を、さらに力強く、社会全体で推進していかなければならない。/ここに、全ての人への不当な差別は許されないことを宣言するとともに、人々が互いに人格と個性を尊重し合いながら共生する心豊かな社会の実現を目指し、たゆみない努力をすることを決意し、この条例を制定する>(沖縄県公式サイト)。

 以前にもこのコラムで述べたが、筆者は沖縄の歴史的、文化的特殊性に鑑みて、沖縄がそれ以外の日本と連邦(フェデレーション)もしくは国家連合(コンフェデレーション)を形成するのが望ましいと考えている。そうなれば独自の裁判権を持つことも可能だ。それによって日本の中央政府が一方的に定めたルールに従って辺野古新基地建設を法的に強要されるという事態も回避できる。

 沖縄は自己決定権を持つ主体として「基本法(憲法)」を制定する必要があるが、「沖縄県差別のない社会づくり条例」は「基本法」の人権規定の内容を先取りしている。特に重要なのが第9条だ。

 <(県民であることを理由とする不当な差別的言動に関する施策)/第9条 県は、県民であることを理由とする不当な差別的言動の解消に向けた施策を講ずるものとする>(同条)

 沖縄人であるが故に不当な差別を受けているという現実がなければ、<県は、県民であることを理由とする不当な差別的言動の解消に向けた施策を講ずるものとする>という規定は生まれない。県が沖縄差別の存在を認め、それと闘う姿勢を明記したことが極めて重要だ。

 沖縄の自己決定権確立に向けた動きが一歩進んだ。現在の条例は「県は、県民であることを理由とする不当な差別的言動」という表現ぶりになっているが、これを将来、「県は、県民並びに沖縄人(県にルーツを持つ人でもいい)であることを理由とする不当な差別的言動」と改訂してほしい。県が擁護する対象を沖縄県以外の日本、さらには外国に住むウチナーンチュに拡大する必要があるからだ。沖縄に帰属意識を持つのは県民だけでなく、筆者のように日本で生まれ育った日本系沖縄人も世界のウチナーンチュも含まれるからだ。沖縄は日本の単なる県ではなく、全世界の沖縄人にとっての「祖国」なのだ。

 日本の地上面積のわずか0・4%を占めるに過ぎない沖縄県に在日米軍専用施設の70%が所在するという構造化された沖縄差別の解消のためにも、この条例には大きな意味がある。

(作家、元外務省主任分析官)