<書評>『ひめゆりたちの「哀傷歌」』 戦争の悲惨さ、未来に継ぐ


社会
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『ひめゆりたちの「哀傷歌」』仲程昌徳著 ボーダーインク・1760円

 今次の大戦は多くの県民を死に追いやった。著者はその中の、ひめゆり学徒(女子師範・県立第一高等女学校)にスポットを当て、沖縄の激戦のありさまを証している。

 沖縄県歌話会篇の合同歌集『黄金森』(1995年)の中から、ひめゆりの人たち18人の短歌を主体に、生還学徒たちの生々しい手記や証言と、著者の解説が綿密に付されて、重層的な内容となっており、作歌の折の心情をうかがい知ることができる。

 下顎を撃ち抜かれたる傷兵の もの言ふ度に蛆の飛び来る 野村ハツ子

 あだん葉のとげの辛さは知ら ざりと砲弾におののく戦場なれば 喜納和子

 自決せし兵の体は飛び散りて 我が目なかひに手のひら一つ 上村清子

 生きゆかむ声聞こゆなり摩文 仁野に散りにし屍踏みゆくを畏る 上江洲慶子

 洞に眠る乙女に届くか観光の 行き交う人の繁き足音 親泊文子

 『黄金森』以外の合同歌集や個人歌集、同人誌からも何人かの短歌が抄出されている。引率教諭の仲宗根政善の〈厳かげに一すぢの黒髪乙女ごの自決の地なり波もとどろに〉、花ゆうな短歌会主宰の比嘉美智子の〈祈りつつ遺影を辿るほかはなしお河童あたまの幼ひめゆり〉、ひめゆり出身の新崎タヲの〈乙女らの青春(はる)なく逝きしあわれさに詫びつつ祈る永久なる平和を〉などの作品。読み進むにつれ、学徒や兵の負傷死、自決などの無念の思いが胸を衝く。

 あとがきに、歌を取り上げながら、歌そのものについて述べる以上に、歌の出所というか、歌と関わりのある証言を引いてきたのは、ひめゆりの戦争、ひいては沖縄戦を浮かび上がらせたかったためである、と述べている。

 戦後78年、薄れがちな戦争のの悲惨さ、平和の尊さを、未来へ継ぐためにも、ひめゆり学徒たちの過酷な戦争体験を短歌の分野から書かれたこの書は貴重なものである。

(屋部公子・現代歌人協会会員)


 なかほど・まさのり 1943年テニアン島生まれ、元琉球大教授。著書に「沖縄文学の魅力」「南洋群島の沖縄人たち」など多数。