<書評>『首里城の舞台と踊衣裳』 琉球芸能 多角的視点で考察


社会
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『首里城の舞台と踊衣裳』茂木仁史、古波蔵ひろみ著 榕樹書林・3960円

 尚家文書の公開などにより、近世琉球から近代にかけての歴史学における研究成果が多く蓄積されている。琉球芸能研究でも、冠船芸能を上演における準備過程や組踊に関する新たな研究成果がみられる。本書において、茂木・古波蔵両氏が尚家文書の史料などを基に、冠船芸能を支える舞台構造や演者の踊衣裳・結髪における成果がおさめられている。紙幅の関係上、全てを紹介できないが、両氏の論考について述べておきたい。

 茂木氏の論考は、首里城の御庭に設置された舞台を中心に、絵画史料・文書史料などを基に詳細な考察がなされている。その上で、能舞台の構造との類似性と舞台の装飾にみえる意匠に中国的な要素がみられ、琉球側が冊封儀礼での芸能を興じる上で独自の空間を創り上げたことを指摘している。また、1838(道光18)年の事例などから冠船芸能の稽古場における舞台構造をも検討し、舞台の設営や構造からみえる冠船芸能の諸相を明らかにしている。

 つぎに、古波蔵氏の論考は、衣裳・結髪の観点から冠船芸能が行われた近世琉球から現代までの変遷を体系的に知ることができる。特に、若衆踊の衣裳である「板〆縮緬」の染織技法など新たな知見がみられる。こうした研究成果は、琉球芸能の実演家らが特に関心を持つ分野であり、研究者のみならず実演家にとっても有益な書となるであろう。ただ、容易ではないかもしれないが、踊衣裳・結髪の観点から琉球芸能を俯瞰した氏の見解があってもよかったであろう。

 本書からは、琉球側が冊封使歓待のため、芸能の舞台構造や衣裳などを通して、冊封儀礼の荘厳(そうごん)さと祝儀性を創出しようと腐心した実相が垣間見ることができる。また、2022年10月国立劇場おきなわで「朝薫五番とからくり花火」と題し、両氏の研究成果が上演に反映されたことも付言しておきたい。これからの琉球芸能研究において、演劇・舞踊・音楽の視点のみならず、舞台構造や衣裳に至るまで総合的な検討が肝要であると感じた書である。

 (我部大和・沖縄国際大准教授)


 もぎ・ひとし 国立劇場おきなわ調査養成課前課長、沖縄県立芸大芸術文化研究所共同研究員。主な著書に「琉球浄瑠璃―久志の若按司」(共著)など。 こはぐら・ひろみ 沖縄県立芸大芸術文化研究所共同研究員、小波流琉球きからじ結研究所主宰。主な著書に「踊衣裳の研究I」など。