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ゲイを告白、その時に父は母は・・・ ドキュメンタリー映画「カミングアウト物語」 那覇出身・川田さん主役、監督も当事者


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沖縄カミングアウト物語~かつきママのハグ×2珍道中!」の(前列右端から時計回りで)主人公の川田美輝さん、父の幸栄さん、母の初江さん、監督の松岡弘明さん=17日、南風原町

 ゲイであることを告白すると、父と母は―。東京都新宿2丁目にあるゲイバー「九州男」の店主・かつきママこと川田美輝(よしてる)さん(48)=沖縄県那覇市出身=は約10年前、家族に自身のセクシャリティを伝えた。当時を振り返るドキュメンタリー映画「沖縄カミングアウト物語 かつきママのハグ×2珍道中!」が沖縄国際映画祭でも上映され、話題を呼んでいる。「恥ずべきことではないのに、大切な家族に伝えられないなんて」。苦しくて、窮屈さを抱えていた当時から、「今が最高に幸せ」と言えるようになった家族との関係性が描かれている。

 川田さんのお店に客として訪れた松岡弘明監督との出会いが制作のきっかけだった。松岡監督も恋愛感情や性的魅力を感じる相手が男性で、それを「一番近い存在だった」母親に告白できないまま、2008年に母親を亡くした。川田さんのカミングアウトの話を聞き「そういう可能性もあったのかと救われた気持ちになった。希望の形として撮りたくなって」と語る。21年に5日間かけて、川田さんともに友人やきょうだい、両親の元を回った。

 保育園の頃から好きになる相手は男性だった川田さん。周囲には知られないよう努力をしていたと話す。20代後半で「窮屈で生きづらくなった」沖縄を飛び出し、東京のゲイバーで働くことに。職場を明かすこともなく、電話越しに「いつ結婚するの」と聞く両親の言葉に、苦しさを覚え、嘘をついているような感覚に陥ったという。結婚は考えていないことを伝えると「孫ができて初めて子育て卒業と思えるのに」と、涙を流す母親に、さらに苦しさが募った。

 両親への告白を決意したのは、ゲイバーで生計を立てられるようになったころ。「これで生活していることを見せたかった。親が元気なうちに親孝行もしていきたかった」

 映画の中では、父の幸栄さん(74)、母の初江さん(73)に告白した瞬間のそれぞれの受け止めの様子や表情、川田さんのパートナーとの現在の関係なども細かく明かされている。「今は伝えてくれてありがとうと言いたい」と初江さんが笑うと、隣に座る幸栄さんも大きくうなずく。告白して間もないころは、川田さんが初江さんに「すごいね、男も女もおかまも生んで」と話しかけると固まって少しの笑いも生まれなかったジョークが、今では大笑いされるまでになったという。

 「悲しいこともうれしいこともこれからたくさんのことを共有していきたいのよ」。川田さんはそう語り、2人の方を向き満面の笑みを見せた。

 松岡監督は「いろいろな家族の形があるので、もちろんカミングアウトだけを推奨しているわけではない」と話しつつも、「大切な人との関係を振り返ってみる機会となればうれしい」と語った。

 映画は現在、動画配信サービス「U―NEXT」(ユーネクスト)で視聴できる。

(新垣若菜)