【深掘り】先島諸島へのPAC3配備 展開急ぐも輸送に混乱 港湾は事業者で満杯、使えず


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社
航空自衛隊の輸送機から降ろされ石垣駐屯地にむかうPAC3の関連車両=24日午後8時45分ごろ、新石垣空港(八重山毎日新聞提供)

 北朝鮮による「軍事偵察衛星」の発射計画を受け、浜田靖一防衛相は22日、航空自衛隊の地対空誘導弾パトリオット(PAC3)部隊の先島諸島への展開準備を命令した。23日以降は航空機で関連車両を搬入する様子が確認され、防衛省は「速さ勝負」(関係者)として部隊展開を急ぐが、港湾の使用を巡っては岸壁の確保ができないなど、輸送計画に混乱も生じている。北朝鮮は衛星を打ち上げる考えを公言しているが、打ち上げる方角や時期は明らかにしていない。

合理的判断

 防衛省によると、北朝鮮は2009年以来4度、人工衛星と称して事実上の弾道ミサイルを発射し、初回を除いて南方向に発射した。うち2回は沖縄上空を通過した。

 こうした経緯などから「合理的判断」(政府関係者)として南西方面で迎撃態勢を整えることを決めた。

 防衛省関係者は「ミサイルであればブースターなどが落ちてくる可能性がある」として、部品などの落下が念頭にあることを示唆した。

 一方、県関係者の一人は、危機管理対応としての配備には理解を示しつつ「しょうがないという気持ちにつけ込んだ展開訓練ではないか」と警戒感もくすぶった。

 「慌てて市町村と調整せずに展開しても別の問題になる」(政府関係者)とみて、政府は北朝鮮による打ち上げ先発表に先回りして準備を進めた。だが、準備命令が出て最初の平日となった24日、港湾使用は防衛省・自衛隊の思惑通りにはいかなかった。

予約でいっぱい

 中城湾港管理事務所には、防衛省から水深10メートル以上の深さのバースを利用したいと打診があったが、事業者の予約で全て埋まっていたため正式な使用申請は出ていない。

 那覇港管理組合には23日に電話で、24日には直接同組合を訪れて要請があった。自衛隊側は、車両と人員の輸送のために、24日の午前9時に海上自衛隊の輸送艦「しもきた」の入港を要望したが、同組合は対応可能なバースが全て予約で埋まっていることを伝えた。

 25日に予定されていた宮古島市の平良港からの自衛隊車両14台の陸揚げも、中止になった。市の担当者は「中止としか聞いておらず、理由も分からない」と話した。

 県土木建築部の関係者は、那覇港、中城湾港は共に慢性的な混雑のほか、最近は観光業の回復で貨物需要が伸びており「予約でいっぱいだ」と受け入れられない背景を語った。

 ある自衛隊関係者は「教訓にもならないほど、単なる失敗だ」と頭を抱えた。

 一方、別の防衛省関係者は「調整が全て終わってから出発していては遅い。仕方がない」と語る。県に対しても「政治的理由で断ったとは思えない。本当に空いていなかったのだろう」と話しつつ、今後の教訓にする必要性を述べた。

(知念征尚、明真南斗)