在仏中国大使の発言 外交で中ロが戦略的連携<佐藤優のウチナー評論>


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佐藤優氏

 21日、中国の盧沙野・駐仏大使がテレビ番組で旧ソ連から独立した国々の主権を疑問視する発言をした。

 <中国の盧沙野・駐フランス大使が、クリミア半島のウクライナへの帰属についてあいまいな発言をしたり、旧ソ連から独立した国の主権に疑問を呈したりして、ウクライナやバルト3国など関係国に反発が広がった。/香港英字紙サウスチャイナ・モーニング・ポストが24日までに伝えた。/ウクライナ南部クリミア併合などロシアの支配を容認するかのような盧氏の発言には欧州全体に非難が拡大。中国の大使がロシアに肩入れした姿勢を示したことでウクライナ情勢を巡る中国の公平な立場を疑う声も高まり、中国の在フランス大使館が24日、発言は大使の「個人の見解」で「過剰な解釈をすべきでない」との声明を出すなど釈明に追われた。/同紙によると、盧氏はフランスメディアのインタビューに対し、ロシアが2014年に併合したクリミアの帰属を巡り「どのように問題を受け止めるかにかかっている」と発言し、あいまいな態度を示した。クリミアは「当初はロシアだった」とも述べた。旧ソ連諸国については「主権国家としての地位を認めた国際的な合意はない」と語った>(4月26日「毎日新聞」朝刊)。

 盧大使の履歴を調べると、アフリカ勤務が長いが、カナダ大使の経験もある。旧ソ連の連邦構成共和国の主権を疑問視する発言をすれば、ウクライナやバルト3国が激しく反発することは分かっている。盧大使は意図的にこの発言をしたのだと思う。それは3月31日に改訂されたロシアの外交概念と関係している。

 外交概念第49項で<ロシアの安全、安定、領土保全、社会経済的発展、世界の発展と文明の影響力のある主権的中心地の一つとしてのロシアの地位の強化にとって最も重要なことは、ロシアと数世紀にわたる共同国家の伝統、さまざまな分野における深い相互依存、共通の言語によって結びついているCIS加盟国およびその他の近隣諸国との持続可能な長期的善隣関係とさまざまな分野における潜在力の統一を確実にすることである>(3月31日、ロシア大統領府、ロシア語より筆者訳)という規定がある。

 旧ソ連邦構成共和国を近隣外国と位置付け、そこにロシアが特別の影響力を行使できるという意味だ。これはロシアの国益にとって死活的に重要な事柄があれば、近隣外国の主権は制限され得るという帝国主義的発想に基づいている。盧大使は、ロシアの外交概念に対する理解を示すために問題となった発言をしたのだと思う。

 中国外務省も廬大使の発言を明示的に否定や撤回していない。<中国外務省の毛寧副報道局長は24日の記者会見で「中国は旧ソ連諸国の主権と国家としての地位を尊重している」と説明し、中国の立場は変わっていないと述べた。/中国はソ連崩壊で独立した国と「いち早く国交を樹立し、相互尊重と平等を原則として友好協力関係を発展させてきた」とも強調した>(前掲、「毎日新聞」)。

 毛氏は、ウクライナが主権国家であることは認めるが、その領域がどこであるかについては述べていない。また、旧ソ連邦構成共和国について、主権国家としての地位を定めた国際的な合意があるとの認識も示していない。盧大使の発言を明示的に否定しないように毛氏は細心の配慮をしている。本件は3月に習近平中国国家主席がモスクワを訪問し、プーチン大統領と会談した後の中ロの戦略的連携を示すエピソードだ。

(作家・元外務省主任分析官)