台湾から来沖した3氏に聞く「台湾有事」の可能性 きょう、シンポジウム「沖縄対話プロジェクト」に登壇


この記事を書いた人 琉球新報社

 「『台湾有事』を起こさせない!沖縄対話プロジェクト」と琉球新報社が共催するシンポジウムが29日午後1時から、那覇市泉崎の琉球新報ホールで開催される。シンポジウムで登壇する、香港メディア「香港01」駐台湾首席記者の張鈞凱氏(37)、ネットメディア苦労網の元記者で現在は出版社で編集者を務める張智琦氏(33)、台湾・屏東県出身で香港理工大の助理教授を務める李鎮邦氏(44)の3氏が琉球新報のインタビューに応じた。「台湾有事」の起こる可能性についての見解や台湾国内の世論の変化などについて聞いた。

記者の質問に答える張鈞凱氏=27日、那覇市の琉球新報社(喜瀨守昭撮影)

張鈞凱氏(香港メディア「香港01」駐台湾首席記者)

 ―「有事」の危機が強まる背景についてどう考えるか。

 「中台の両岸関係にずっと残っている問題だ。中国と台湾で解決すべきだが、米国は現在、中国が自国の覇権を脅かすと心配している。過去にチベットや香港問題への介入が失敗し、次は台湾を戦場にしようと進んでいるのではないか」

 

 ―台湾は中国と対峙(たいじ)してきたが、変化は。

 「ずっと対峙しているのではなく、変化している。馬英九政権期、ほとんどの人たちは戦争や平和について深く考えなかっただろう。いま台湾の人々が心配しているのは中国との緊張関係ではなく、もし戦争が起こったとき自分にどのような影響があるのかだ」

 

 ―台湾では防衛力強化を懸念する声はあるか。

 「台湾に米軍基地があったのはずっと以前の話だ。そのため防衛力強化に対して懸念は生じておらず、米国が防衛を強化すること、自衛隊が台湾防衛を手伝ってくれることを期待している」

 

 ―沖縄は緊張緩和にどのような役割を果たせるか。

 「台湾にとって沖縄は観光地のイメージが強いが、地上戦が起こった場所だ。台湾が沖縄から学ぶべきことは、平和は創り出せるものであり、戦争も回避できるものだということだ」

 

 ―交流を通じて沖縄への認識は深まるか。

 「沖縄の人たちが、歴史や平和を求める努力をどう伝えるかによる。自分たちの核心的な価値観として、平和を求める思いをどう見せるかが大事だ。米軍基地が沖縄に与えている影響も見せるべきだ」

記者の質問に答える張智琦氏=27日、那覇市泉崎の琉球新報社(喜瀨守昭撮影)

張智琦氏(出版社編集者)

 ―「台湾有事」の可能性をどう考えるか。

 「台湾海峡で戦争が起こるという意味なら、可能性はどんどん高くなっている。蔡英文政権はこれまでで最も親米派の政権で、軍事化、基地化を進めている。蔡政権は戦争の準備を進めることで戦争を防げると主張しているが、実際は戦争の起こる可能性を高めている」

 

 ―台湾の世論は。

 「軍事化して中国と対抗するのが正しいという意見が多い。反対の人も多いが、世論の雰囲気の下で声を上げられない」

 

 ―沖縄と台湾の共通点は。

 「ともに19世紀に日本の植民地となり、戦後は米国の勢力圏に入り中国包囲網の橋頭〕堡がほ「の役割を演じさせられている。もし台湾海峡で戦争が起これば、沖縄は絶対に巻き込まれる。運命共同体だと思う」

 「一方で台湾は沖縄のような戦争体験がなく、戦争をそこまで怖がっていない。沖縄は戦争を体験し、今に続く米軍基地の圧迫があり、平和を切に求める価値観が生み出されている。これこそ台湾に一番欠けている部分だ」

 

 ―沖縄にできることは。

 「沖縄と台湾の民間交流をもっと深めるべきだ。米軍基地から起こる事件を描いたフェンスというドラマがあるが、このような文化や出版物などの交流を通して沖縄の歴史や現実が伝われば、今の雰囲気の中でも平和が実現できる可能性があると理解できるようになる」

記者の質問に答える李鎮邦氏=27日、那覇市泉崎の琉球新報社(喜瀨守昭撮影)

李鎮邦氏(香港理工大助理教授)

 ―台湾有事が起きる可能性をどうみるか。

 「中国より米国の行動に注目すべきだ。米国は台湾有事が発生する道に向かっていると感じる。例えば2008年の金融危機時、中国は米国債を購入し、世界経済の安定につながった。だが現在、米国の一番の債権者は日本になった。これは安定につながるわけではない。米国は債務上限を高めようとしているが、中国は関わりたくない。日本が債権者としてうまく対応できなければ、米ドルの価値は下がり、米国は今の地位を失うかもしれない。米国は中国に対する態度を絶対に譲らないはずだ」

 

 ―香港からみた中台の両岸関係は。

 「香港と台湾の民衆に共通するのは、国際的な情勢を正しく認識していない点だ。だれの力が強いのでだれが勝つ、という浅い考え方だ。だがウクライナ戦争を見て、香港人の学生の考え方も変化してきた。欧州で起きたウクライナでの戦争に米国が介入しないなら、米国と遠く離れた台湾の場合、介入の可能性はさらに低いと思い始めた」

 

 ―米国、中国双方とどう向き合うべきか。

 「中国が強国として勃興することは絶対に抑えることはできないと認識すべきだ。歴史を重視する中国人からみると、過去の200年は帝国主義に侵入され、あと一歩で滅びる立場になった。過去の歴史に対して日米の真剣な態度、姿勢を示すべきだ。台湾は、米中双方と友好関係を維持するシンガポールのような政策を採った方がいい」