沖縄と台湾、交流深め対話の第一歩に 登壇者ら方策など話す <「台湾有事」回避目指すシンポ>4クロス討論


社会
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 「台湾有事」の回避を目指すシンポジウム(「台湾有事」を起こさせない・沖縄対話プロジェクト主催、琉球新報社共催)が4月29日、琉球新報ホールで開催された。沖縄と台湾双方からジャーナリストや研究者、市民ら5人が登壇し、台湾や中国、双方の関係や沖縄の現状を報告。日米が果たしてきた役割や今後の展望を浮き彫りにした上で、東アジア地域での紛争を回避するために沖縄と台湾地域の連携を強める重要性を確認した。シンポジウムの様子を報告する。(沖田有吾、知念征尚、佐野真慈、梅田正覚、與那原采恵)

 【登壇者】
 張鈞凱氏(香港01駐台首席記者)
 張智琦氏(元苦労網記者、現出版社編集者)
 李鎮邦氏(香港理工大助理教授)
 小松寛氏(成蹊大アジア太平洋研究センター主任研究員)
 宮良麻奈美氏(石垣市住民投票を求める会)

 【コーディネーター】
 津田大介氏(ジャーナリスト)

 【通訳】
 李舒陵氏 前黒島萌氏


クロス討論 交流深め 対話の第一歩に
 

 津田 ロシアによるウクライナ侵攻は台湾の対中姿勢や沖縄の基地にも影響を与えた。侵攻前後の変化はどうか。

 宮良 ウクライナ侵攻の次は台湾有事と言われるが、私にとっては別物だ。議論はいいが、論点を整理してウクライナと日本とか沖縄の状況の違いを知りたい。

 小松 国際社会は侵攻を大失敗に終わらせる必要がある。こうした教訓が中国の台湾侵攻の回避にもつながるだろう。

 李 欧州とウクライナは距離的に近いが、海で囲まれた台湾と中国にはあまりリンクしない。

 張智琦 今回のウクライナ侵攻は確かに台湾社会に大きな影響を与えた。台湾はさらに米国と緊密に連携する方向に走りかねない。ただ、両岸関係とウクライナとロシアの関係の決定的な違いは、台湾と中国は漁場管理において歴史文化がリンクしているため、平和的解決を求める空間があることだ。

 張鈞凱 ウクライナとロシアの戦争で注目したいのは、誰が戦争を止められるかということだ。交渉の余地があったが、米英は止めなかった。欧州の分裂を受けて東アジア諸国でどのように声を上げていくか明確に確認するべきだ。

 小松 台湾側に聞きたい。台湾独立や中台統一ではなく、現状維持の選択肢はないか。

 張智琦 現状維持は独立や統一派に比べて台湾の中で支持者は多い。今、人々は自分たちの将来を見据えて考えており、答えを出すのには時間がかかっている。

 張鈞凱 沖縄側に聞きたい。沖縄が平和の架け橋になる可能性はあるか

 小松 沖縄の戦後思想を研究している。沖縄戦の経験から、沖縄の思想は絶対に軍事が認められない。戦争に反対し、基地を減らすことを追求した沖縄の戦後史は民主化を目指す過程でもあった。

 宮良 石垣島には沖縄本島で米軍から土地の強制接収に遭った人や台湾からも多くの移住者がいる。台湾有事の懸念が背景にある自衛隊配備がこれらの人々の生活に影響を及ぼしている。安全保障という政府レベルの話になると置いてけぼりとなる人がいる。私は人間に焦点を当てた感情の交流を期待する。

 津田 最後に一言。

 張智琦 台湾側は沖縄の過去の歴史をもっと勉強する必要がある。台湾人は単なる観光ではなく、基地問題など県民の心に中にある感情を感じて初めて当事者として向き合うきっかけになる。まずは双方の交流から始めるべきだ。

 李 平和を支持するのは誰なのか、そして戦争を支持するのは誰なのかを明確にして、メディアの発言や言動を見ていく必要がある。

 津田 この場が沖縄と台湾の対話を作る第一歩になった。台湾と沖縄が交流を深めていくことが重要だ。


基調講演の感想と質問 台湾有事、戦争でない
 

 津田 中国は台湾統一を軍事侵攻で実現するだけでなく、平和的統一を捨てていないし台湾側にそうしたシグナルを送っている。そういう微妙な関係をくむことなく安全保障のパワーゲームの観点からしか世界を見ていないアメリカのエリートが台湾有事、戦争を避けられない大前提として議論を進めている。その大前提を疑うべきで、台湾有事はメリット以上にデメリットが大きい最悪の選択肢。台湾有事は戦争とイコールではない、イコールにしてはいけないと受け取った。

 張智琦 私も台湾有事イコール戦争ではないと認識している。皆さんと私たちが台湾の未来がどの方向に向かっているのかを一緒に考えることも非常に大事だ。

 李鎮邦 台湾有事は一つの新体制、新政権の表れと感じている。また有事は起こらないと感じている。

 小松寛 中国の軍事演習は平和的統一の一環との発言はどのような論理なのか。台湾の人はそれを理解しているのか。

 張鈞凱 演習はワシントンに見せつけるという意図があると思う。台湾社会では上空をミサイルが通過しても、いつものことかという感じで感情が見えてこない。(演習は)私たちには響いてないと思っている。

 小松 疑米論(有事の際などに米国は台湾を助けるのかと疑問視する考え)は中国からの影響があるか。

 張鈞凱 影響があるかは中国の勃興を気にして観察する必要がある。疑米論は確実に存在しているが、集約された思想ではない。アメリカを疑う=中国統一支持とはならない。

 宮良麻奈美 台湾での有事に関する温度感は八重山と似ていると感じた。自衛隊に対するイメージを知りたい。

 張鈞凱 自衛隊は日本がもつ軍隊というイメージがある。自衛隊があれば平和になるとイコールで結ばれているイメージはある。