陽性者の受診、介護 一般的対策で受け入れ可能 <じぶんごとで考えよう HIV/エイズ>2


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 「HIVの方は診ません」。本島南部に住むAさんは、微熱があり近隣の医療機関を受診しようと問い合わせした際に「HIV感染者である」と伝えたところ、数カ所から同様のことを言われたそうです。医療が受けられず「死ねと言われているような気がした」と話されていました。

 HIV/エイズに対する恐怖心や同性愛嫌悪が強かった1980年代、イギリスの故ダイアナ妃は手袋をせずにエイズ患者と握手し、「エイズは触るとうつる」という考えは間違いだと伝えました。それから30年以上たち、HIVに感染しても正しい内服を継続するとウイルスの増殖や発症を抑えられるようになりました。セックスや妊娠、出産も可能となり、老後も考えられるまでに医療は進歩しています。

 しかし、人々のHIV/エイズに対する偏見や差別は根強く残っています。沖縄でも「HIVに感染している」ということだけで外来診療や入院、施設入所(入居)の受け入れ拒否が起こり、患者らを何重にも苦しめています。

 誰でも歳を重ねる中で、糖尿病やがん、骨折などでの治療・入院や、介護が必要になることがあります。しかし、HIVに感染しているだけで受け入れ先が見つからず、必要なリハビリの機会を逃し、エイズ治療中核拠点病院で長期入院を余儀なくされる現状があります。

 診療、受け入れ不可の施設へ理由を聞くと「風評被害が困る」「感染対策ができない」といった言葉がよく聞かれます。ですがHIV陽性者であってもなくても、個人の病気や薬の情報が第三者へ漏れること自体が個人情報の漏えいとなり、問題です。またHIVに限った特別な感染対策は必要ありません。医療機関や施設での対策は、一般的な標準予防策(スタンダードプリコーション)を遵守(じゅんしゅ)すれば十分です。

 県では、HIV陽性者が各種医療サービスを受けられるよう支援したり、長期療養施設を確保したりすること等を目的に、2017年から県感染症診療ネットワークコーディネーター事業を開始しました。

 行政、施設、医療機関等とのネットワーク構築、HIV感染症に関する正しい知識を伝えるための研修会を実施しています。また医療機関等で針刺し事故が起きた場合に備え、沖縄県血液等曝露(ばくろ)後HIV感染予防薬整備事業も行っています。研修や陽性者の受け入れに関すること等、相談は無料ですので、お気軽に県感染症診療ネットワークコーディネーターまでご連絡ください。

(新里尚美、琉球大学病院第一内科・県感染症診療ネットワークコーディネーター)