<書評>『沖縄に生きる 豊里友行写真集』 現在進行形の沖縄表現


社会
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社
『沖縄に生きる 豊里友行写真集』豊里友行著 新日本出版社・2860円

 これまでに両手の指では数え切れないほど多くの写真集を著してきた写真家・豊里友行の近著『沖縄に生きる』には、名護市辺野古で撮影された写真が多く収められている。著者には既にその地名を冠した写真集『辺野古』(2014年、沖縄書房)があり、本書にもいくつか同じ写真が収録されているが、主題を深めていく変奏的な手法ともいえ現在進行形の沖縄が表されている。

 辺野古の他にも名護市安和、本部町塩川、東村高江、嘉手納基地、普天間基地、キャンプ・シュワブ、キャンプ・瑞慶覧、糸満市摩文仁・平和の礎、宮森小学校など、地名をたどるだけで沖縄の現代史が眼前に広がるような場所で写されている。また、沖縄に強いられた不条理に向き合う人びとをとらえた写真群が最初と最後の著者の両親の写真で包まれている構成は、沖縄戦を生き延びえた母親の存在によって自身が沖縄に生きていることを示すと同時に、この瞬間も沖縄で生きているすべての人の生命(いのち)の問題としての基地を写真で語っているように思える。

 1999年から2022年の長期間の写真からなる本書には実に多くの人が写し込まれている。基地反対の立場の人だけでなく、賛成せざるを得ない人、アメリカ兵、機動隊や海上保安庁職員、報道関係者、子どもたち、さながら現代沖縄の群像である。

 人の数もさることながら人の数だけある「手」が印象的だ。「もう基地はいらない」や「辺野古新基地建設NO!」のプラカードを持つ手も、ゲート前で座り込む翁長雄志知事や玉城デニー知事の手も、オスプレイ強行配備に抵抗する手も、辺野古の浜下りで海の幸を求める手も、パーランクーをたたく手も、祈り拝む手も、皆すべてやわらかな素手である。それに対し市民を排除する機動隊や海上保安庁職員の手は手袋で覆い隠されている。手の内を隠したまま強引に人の手を引き剥がす手よりも、徒手空拳の人びとが、掲げ、握り、つかみ、合わせ、祈り、踊り、振り、抱き、差し出す、その多様なかたちをした手に未来への希望を感じる。

(松本太郎・編集者/写真家)


 とよざと・ともゆき 沖縄県生まれ、写真家。写真集に「千原エイサー」「沖縄にどう向き合うか」など多数。