<書評>『組踊の歴史と研究』 琉球沖縄を多面的に見通す


社会
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『組踊の歴史と研究』鈴木耕太著 榕樹書林・6380円

 組踊はどのように生まれ、展開してきたのか。また、琉球沖縄社会のなかでどのような役割を担ってきたのか。本書は、組踊が生まれた1719年前後から、琉球政府より無形文化財指定を受ける1967年ごろまでの歴史的な歩みなどを通観して、組踊とはなにかを描き出そうと試みたものである。

 組踊が成立した背景にあったのは、玉城朝薫という「天才」がいたからだけではない。著者は、組踊の誕生を、薩摩藩による琉球支配や清朝中国との外交関係といった国際環境が前提にあったとし、さらに「琉球国の文化政策の一つとして行われた一大事業」と見る。日本、中国の芸能や演劇の内容および、それぞれの地域における役割などを参照しつつ、冊封使接遇という外交を機に琉球国内の伝説や文芸を題材にして作り上げられたのが組踊であると捉えられるという。さらに言えば、評者は本書から、前近代の組踊が琉球自身や他者に対して琉球とはなにかを知る(見せる)役割を果たしたのだと感じた。

 近代となり王府権力と切り離されていき運営主体が民間に移っていくと、組踊は商業演劇という性格を強めていく。ここでも組踊は、国際環境や社会統制の変化、劇場や放送といった公演方法の多様化などに合わせて変容していった。近代以降の組踊の変容は、琉球沖縄と日本の政治的あるいは社会的な距離や、琉球沖縄社会をとりまく国際的な状況が背景にあったのである。

 このように、前近代から近現代まで、琉球沖縄を象徴するひとつの文化として組踊があると本書は示す。それは、組踊自体の歴史的変遷だけでなく、組踊の研究史に関する考察や、組踊台本のテキスト分析にも通底している。また、歴史やテキスト、役名、組踊の伝播(でんぱ)など本書で取りあげられた多くの研究視点を踏まえると、組踊のみならず琉球沖縄に関わる芸能研究の裾野(すその)が今後いっそう広がっていくことが期待される。組踊から琉球沖縄を多面的に見通すことができる一冊である。

(麻生伸一・琉球大教員)


 すずき・こうた 読谷村生まれ、沖縄県立芸術大芸術文化研究所准教授。共著に「琉球文学大系14 組踊 上」「沖縄芸能のダイナミズム」など。