沖縄の救済封じ込め 最高裁に応答する責務 白藤博行氏・専修大学名誉教授<地方自治から考える辺野古訴訟>


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新基地建設が計画されている名護市辺野古の米軍キャンプ・シュワブ沿岸部=2022年、航空機より撮影

 一連の辺野古訴訟において、沖縄県の「敗訴」が続き、国に囚(とら)われた沖縄の「基地地獄」が続いている。沖縄県民は、満腔(まんこう)の怒りに震え、胸破れる思いでこの現実を直視し、しかし昂(たかぶ)りを抑え、心を鎮め、これに抗(あらが)う日々を送っているに違いない。国には、辺野古訴訟における不条理・理不尽な議論が、長年、基地問題で苦しむ県民の人間の尊厳を毀損(きそん)し、沖縄の未来を奪い続けていることをまずは深く自覚してほしい。

 本紙の「相克を読み解く辺野古裁判」の連載では、辺野古訴訟における国(沖縄防衛局)の無理筋な行政法解釈、そして、ことさら実体的判断を避け、実体的判断をしたとしても、いかにも国の意向を忖度(そんたく)するかのごとき判決(最高裁2022年12月8日判決(12・8最判)、福岡高裁那覇支部2023年3月16日判決(3・16高判))の問題点が指摘されてきた。そこで本稿では、知事の埋め立て事業の変更不承認にかかる問題点について、特に憲法の地方自治保障、それを具体化する地方自治法の趣旨・目的の観点から検討したい。

 審査請求の狙い

 国は、知事の変更不承認に対して、埋め立て承認の取り消し・撤回のときと同様、またしても審査請求を申し立てた。そもそも国は行政不服審査法上の審査請求人たりうるかといった「固有の資格」論の再燃である。それにしても、国は、知事の変更不承認が違法であれば、公有水面埋立法を所管する国交大臣が勧告・是正の指示等の自治法上の関与を直截(ちょくせつ)できるにもかかわらず、なぜこれをしないで、同法255条の2第1項1号に基づく審査請求を執拗(しつよう)に繰り返すのだろうか。

 その理由は、(1)国の機関である沖縄防衛局を審査請求人に仕立て、国の機関である国交大臣が知事の変更不承認を取り消す裁決をすれば、たといその裁決が違法であっても、処分庁である知事にはこれを争う法的救済手段はないと一般に解されていること(12・8最判)。(2)知事は、裁決の拘束力(行審法52条)により当該裁決の趣旨にそった措置をとることを強いられ、これに反すれば、裁決の拘束力に反する違法な行為とみなされ、埋め立て承認を求める是正の指示等の適法性を根拠づける理由の一つにできると考えていること。さらに、(3)国交大臣の裁決は「裁決的関与」であることから、自治法上の関与の適用除外とされているため、沖縄県は、違法な裁決であっても、国地方係争処理委員会に審査の申し出ができず、その結果、関与取り消し訴訟も提起できないと一般的に解されてきたことなどであろう。いかにも沖縄県の裁判的救済を封じ込める狙いが丸見えである。

 このような「裁決的関与」の解釈・運用は、いわば「裁判抜き関与」の機能を果たすものだが、国・自治体間の対等関係を確保し、自治体を国の包括的指揮監督関係から開放し、違法な関与に関しては関与取り消し訴訟の提起まで可能とした自治法改正(1999年)の趣旨に反するものである。

 国の誤算

 ただ、国にとっての誤算は、3・16高判が国の期待した裁決の拘束力を否定したことである。すなわち、裁決と是正の指示は、それぞれ内容・法的効果が異なる制度であり、特に是正の指示には関与取り消し訴訟が許容されており、行審法の争訟手続きとは独立した司法審査が用意されている。この関与取り消し訴訟に裁決の拘束力を及ぼし知事の主張を制限する十分な根拠はなく、知事が審査請求手続きにおいて主張した自らの処分の適法理由を関与取り消し訴訟において主張し、是正の指示の適法性を争うことは裁決の拘束力に違反しないとしたのである。

 これは、取り消し裁決で知事の処分に違法の烙印(らくいん)を押し、あわよくば裁決の拘束力で是正の指示の適法性をも根拠づけようとした国の期待を打ち砕いた。国の「国民なりすまし」あるいは「私人への逃避」戦略は奏功しないことになった。この限りで、3・16高判は裁判所の矜持(きょうじ)を示したものであると解したい。

 関与の不当連結

 しかし、3・16高判は、せっかく裁決と是正の指示の制度を截然(せつぜん)と区別し、裁決に拘束されず是正の指示そのものの法令違反にかかる実体的適法性審査をすることになったものの、裁決と是正の指示の関与の主体、目的、内容および手続きにおける実質的同一性の問題を見逃してしまった。つまり、両関与の主体は同一人物からなる同一の国の機関(国交大臣)であり、両関与の究極の目的は知事に変更承認をさせることであり、審理員意見書、裁決書、勧告および是正の指示書の内容は実質的に同一である。しかも、裁決と勧告が同時に、また是正の指示も近接して行われており、それぞれの関与手続きが別個に行われた形跡はまったくない。

 これでは、行審法上、上級行政庁ではない審査庁(国交大臣)が知事に変更承認をすることを求める裁決まではできないため、自治法上の是正の指示等の関与で肩代わりしたようにみえる。こんなことなら、なぜ最初から是正の指示等の関与をやらなかったのか。国は、審査請求による簡易迅速な救済を言いながら、結局、煩雑迂遠(うえん)な審査請求で遠回りしただけではないか。

 本来別個の制度であるはずの「裁決的関与」と「是正の指示関与」を重畳的・一体的に行うことは国の関与の強化に当たり、自治法の関与の最小限原則にも違反し、行政法学が禁ずるところの関与の主体、目的、内容および手続きの違法・不当連結が強く疑われるところである。

 憲法・自治法違反

 自治法は、憲法の地方自治保障の具体化法であることから、地方公共団体に関する法令の立法、解釈および運用のいずれにおいても、憲法の「地方自治の本旨」を尊重し、国と地方の適切な役割分担を踏まえたものであることを明記している(2条11項・12項)。辺野古訴訟における国の法令の解釈・運用は、憲法違反あるいは地方自治法違反の誹(そし)りを免れない。このように辺野古訴訟は、形式的には、国と沖縄県との間の紛争であるが、実質的には、国が「国益」を優先して、沖縄県民の生命、生活、経済および環境をないがしろにしているところに問題がある。最高裁は、大法廷に回付してでも、応答する責務がある。

白藤 博行

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 しらふじ・ひろゆき 専修大学名誉教授。専門は行政法、地方自治法および警察法。1976年、名古屋大学法学部卒業。専修大学法学部助教授、教授を経て現在に至る。著書は『新しい時代の地方自治像の探究』など多数。

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日弁連が辺野古問題シンポ 来月5日、東京、オンラインも

 日本弁護士連合会(日弁連)は6月5日午後5時、東京都千代田区の弁護士会館でシンポジウム「辺野古の海から考える 地方自治って、何だ? 司法の役割って、何だ?」を開催する。日弁連ホームページに掲載するURLからオンライン参加もできる。

 辺野古問題における法的な争点を確認し、これまでの争訟から見えてきた地方自治の在り方の課題などについて共有する。第1部では木村草太東京都立大教授、白藤博行専修大名誉教授、新外交イニシアティブ(ND)代表の猿田佐世弁護士が基調講演をする。第2部は3氏と岡田正則早稲田大教授、加藤裕弁護士らによるパネルディスカッションをする。詳細は日弁連ホームページのイベント欄に掲載。