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戦前から親しまれる闘牛、今も大人気なのはなぜ? 入場曲、実況も個性豊かに ベテラン牛、支え手も熱く<沖縄DEEP探る>


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

毎回3千人超の観客でにぎわう全島闘牛大会。14日にうるま市の石川多目的ドームで開かれた第118回春の全島闘牛大会では、チケット売り場に長蛇の列ができ、開始前には全席が埋まるほどの盛況ぶり。戦前から沖縄の大衆娯楽として親しまれてきた闘牛だが、今も大人気なのはなぜか。その魅力に迫った。

「推し牛」が魅力

闘牛ブームの立役者と言えば、真っ先に名前が上がるのが1960年代に活躍した「ゆかり号」。前“牛”未到の41連勝を記録し、いまだその記録は破られていない。押しも押されもせぬ強さで6年間無敗を守り続けた。その名声にあやかろうと施設や子どもに「ゆかり」と名付ける人が続出するほどだった。

現在の闘牛界はどうだろうか。重量級では闘勢琥珀(とうせいこはく)が全島の過去5大会で5連勝し強さを見せつけている。

一方、中量級と軽量級はチャンピオン牛が目まぐるしく変わる。王座を狙う挑戦牛が次々と現れ、まさに群雄割拠の「戦国時代」だ。

琉球新報で22年にわたって闘牛通信員を務めた平川康宏さん(74)=うるま市=は「迫力ある闘いに県民が変わらずとりこ」であることに加え、「1強だったゆかり号の時代とは違い、いまは強豪牛のオンパレードだ。個性も豊かで、観客もお気に入りの牛がそれぞれにいて、その状況が盛り上げに一役買っているのだろう」と語る。

「格闘技」の演出

闘牛大会といえば、炎天下で、男性たちが声を張り上げて見ている―というイメージはもう古い。ほとんどの大会がうるま市にある屋根付きの石川多目的ドームで開かれ、幅広い層が来場。それぞれの牛が独自の入場曲で登場し、本格的な実況で新たなファン層に応える。

闘牛アナウンサーの伊波大志さんも「格闘技風のアナウンスを取り入れ、見せ方にもこだわっている。何も分からない方でもすぐに楽しめる」と話す。闘牛の街、うるま市が中心となったPR活動で、さらなる闘牛ファンの増加を目指す。

(新垣若菜、古川峻、デザイン・濱川由起子)


ベテラン 支え手も熱く

春の全島闘牛大会では、ベテラン牛の活躍も光った。闘牛ファンおなじみの2頭を紹介する。

勢いよく角をぶつける徳田アコー(左)=14日、うるま市の市石川多目的ドーム(喜瀬守昭撮影)

連敗知らず 徳田アコー

牛主あこがれの全島闘牛大会の常連牛として名を連ねる、戦歴20戦の「徳田アコー」。決して連敗せず、衰え知らずの闘志を持つベテラン牛は、今回の全島で15勝目を手にした。相手は7勝無敗の中量級トップランカーだったが、ものの1分足らずで腹取りを決めた。子牛のころからアコーを育てる牛主の徳田勇さん(58)=うるま市=は「力的にはそんな強くはないが、心だけはとても強い」と笑う。

アコーが徳田家にやってきたのは生後4カ月のころ。勇さんの父・宜計(のりかず)さん(85)さんが知人の紹介で養うことになった。2歳のころの練習試合での取組の様子から「あ、化けるかも…」と感じたと徳田さんは振り返る。

2018年に5歳でデビューすると2連勝。3戦目に、後の中量級王者となる赤番頭と対戦し、善戦するが初の黒星がついた。敗戦後の稽古では気にするそぶりを見せず、復帰戦では見事勝利した。敗れても、同様に復帰戦では引きずることなく勝利することから、ついたあだ名は「不屈のベテラン牛」。

徳田さんも「暇さえあれば散歩で体は鍛えているけれど、心は持ち前のものだから」とアコーの闘志に感服しっぱなし。強豪牛は牛舎間の移籍も多い中で、アコーは一度も移籍することなく、名も変わっていない。「買い手がばんばん出るほど、強くもないから。このまま健やかにあと10戦ぐらいはできたらいいよね」。謙虚な牛主と強気の愛牛の二人三脚は続く。

対戦相手の脇腹を攻める常勝会テスリ華梨(右)=14日、うるま市の市石川多目的ドーム(喜瀬守昭撮影)

13歳初防衛 テスリ華梨

13歳のベテラン、常勝会テスリ華梨(かりー)が30戦目で全島大会の軽量級で初防衛を果たした。名前は孫の華侑(かう)さんとめいの珠梨(じゅり)さんに由来し「嘉例(カリー)(お祝い)」の意も込めた。牛主の照屋常夫さん(63)=うるま市=は「この牛のおかげで家族の結束が強くなった」と話す。

転機は昨年5月、照屋さんが足を骨折したことだった。この危機に家族や親戚が集まり、餌にする草の刈り取りなど、一丸となって牛の世話をするようになった。テスリ華梨の肌が弱いため、独自のオイルを使ったマッサージも毎日、欠かさなかった。「今までで一番強いかもしれない」。手をかけた分だけ意気盛んになっていった。

昨年11月に軽量級全島王者に返り咲き「負ける気がしない」という状態で臨んだ今大会。試合は長期戦になったが、照屋さんはテスリ華梨の落ち着きと目の気迫を見て「大丈夫」と確信した。得意の掛け技で、35分11秒で勝利を挙げた。

牛舎では頻繁に家族でパーティーを開いたり、子どもが遊んだりしている。ともに牛舎を立ち上げた叔父は毎日、牛を見ながら酒を飲む。照屋さんは「世話のしがいがある牛です」と満足げに話した。