【深掘り】北朝鮮の発射体 防衛省、混乱招いたPAC3展開できず 韓国ロケットとの騒ぎの差に「二重基準」の指摘


この記事を書いた人 琉球新報社
航空自衛隊宮古島分屯基地内で構えるPAC3の発射台=4月27日、宮古島市上野野原

 北朝鮮の朝鮮中央通信は31日、国家宇宙開発局が軍事偵察衛星を打ち上げたと報じた。防衛省によると、予告した方向に発射されたが上空で消失。北朝鮮は即座に失敗を認めた。一方、防衛省・自衛隊は先島諸島へ運び込んでいた地対空誘導弾パトリオット(PAC3)を台風の影響で展開できなかった。県内からは部隊展開の必然性を疑問視する声も上がる。

 

 ■防衛省、与党にも運用詳細は明かさず

 自衛隊は4月下旬に民間の空港や港湾の使用許可を巡って混乱を招きながらも、PAC3部隊を先島諸島に移動させてきていた。大気圏外を飛行している段階で迎撃を狙うイージス艦との二段構えだが、PAC3が機能しなければ「中途半端」(国政与党関係者)、「正常な状態とは言えない」(自衛隊関係者)との指摘が上がった。

 宮古島では強風注意報が出ていたものの、住民生活に大きな影響を与えてるほどではない状態だっただけに、市民からは「この風で対応ができなくなるのか」「何をしに来たのか」と困惑の声が漏れてきた。

PAC3が展開できなかったことなどについて記者団に見解を問われる浜田靖一防衛相=31日午前、防衛省

 玉城県政を支持する与党県議の一人は「本当に切羽詰まった状況なら、今回のような対応にならないはずだ。部隊を展開すること自体が目的だったとしか思えない」と首をかしげた。その上で「発射後すぐに落ちたのに、避難解除まで30分も警戒が続き、テレビでは『地面に伏せてください』などと大騒ぎだった。観光客が沖縄にどういうイメージを持つだろうか。危機感を煽るだけだったのではないか」と懸念した。

 PAC3が予定していた即応態勢を取れなかったことについて、浜田靖一防衛相は報道陣に問われ「運用の詳細は答えない」とし「態勢は十分に取っていた。対応として良かった」と述べるにとどめた。自民党の会合でも防衛省は詳細を明かさず、出席した国会議員から「丁寧に説明すべきだ」との声も上がった。

 

■布施氏、PAC3配備は「実際のリスクよりも政治判断」

 実は1週間前の5月25日に、韓国は国産ロケットを打ち上げ、初めて観測衛星を搭載して軌道に乗せることに成功していた。その際、韓国も南向けに打っており、沖縄の上空を通過している。だが、北朝鮮の発射と異なってJアラートも防衛相による破壊措置命令も出されていない。

 元1等空尉で軍事研究をする向井孝夫氏は「あくまでも破壊措置命令は敵対的な活動ではなく、万が一の事故に地上被害を避けるためだ。韓国のロケットと北朝鮮の衛星発射の事故の危険度は変わらず、政府の対応はダブルスタンダード(二重基準)だ」と指摘した。

北朝鮮が弾道ミサイルの可能性があるものを発射したという情報でJアラートが発信された朝、職場や学校に向かう人たち=31日午前7時55分、那覇市(小川昌宏撮影)

 政府関係者は「弾道ミサイルを頻繁に発射している北朝鮮と、そんな事をしていない韓国とでは大きく違う」と強調。防衛省関係者は「(北朝鮮は)国連安保理決議にも違反しており、日本の対応を示すことが重要だ」と語った。

 ジャーナリストの布施祐仁氏は「日本政府が言う弾道ミサイルだったとしても、日本を狙ったものではなく落下の可能性は低い。現実のリスクに即した対応というより政治的な判断だろう」と分析。「この機会を利用し、民間空港や港湾の使用の実績作りも含めて先島諸島への展開訓練をやっているのではないか」と語った。

 (明真南斗、知念征尚)