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東京で自公協力解消 衆院早期解散 決断困難に<佐藤優のウチナー評論>


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佐藤優氏

 自民党と公明党の協力関係に黄信号がともっている。5月25日、公明党は常任役員会で、次期衆院選の東京28区(練馬区東部)での候補者擁立を断念し、都内の自民候補に推薦を出さないと自民党に伝えた。

 <「これまでの協議で、東京における自公の信頼関係は地に落ちた」と理由を伝達した。茂木氏は会談結果を岸田首相に報告した。自公幹事長は30日に再び会談する。両党の駆け引きは激しさを増す一方で、連立政権を揺るがしかねない事態に。/石井氏は会談で「10増10減」で新設された東京28区への候補擁立断念を表明。29区で立てる岡本衆院議員に関し、自民に推薦を求めないと述べた。また都議会で自民と協力せず、次回都議選を含め都内の各種選挙で連携しないと伝達した>(5月25日本紙電子版)。

 5月30日の自公幹事長会談でも議論は平行線で、次期衆院選に関して東京では両党は協力しないことになった。新聞やテレビの報道では、東京で自公の関係がここまで崩れてしまった原因がどこにあるかがよく分からない。公明党の支持母体は創価学会だ。創価学会の出版社「第三文明社」のウェブサイトに5月29日に松田明氏が「公明党が激怒した背景―自民党都連の不誠実と傲慢(ごうまん)」と題する興味深い寄稿をしている。

 <これまで自民党議員が選挙区を「選択」する際、公明党に相談したことはない。それでも公明党は自民党との協調関係を尊重して、事前に茂木幹事長らにも相談。了解を得たうえで、本年1月25日に公認を発表した。/この際も自民党側は「地元の反発があっても、しっかり説得していく」と応じている。/だが5月の大型連休が明けて岡本議員が高島(直樹)・都連幹事長(都議会議員)にあらためて挨拶したところ、高島氏から「今回の公明党のやり方は強引だ」「自民党の現場は応援しない」「自民党の公認がなくても出馬したい人がいる。その人を応援する」との信じがたい発言があった。/信義を重んじ礼を尽くしてきた公明党に対し、東京都連の首脳が今さら「強引だ」と筋違いの非難をし「応援しない」とまで言い切るのだから、公明党側も東京の自民党候補を応援する義理はない。/つぶさに経緯を見れば、日頃は抑制的な公明党が「東京における自公の信頼関係は地に落ちた」と表明したこともうなずけるだろう>(5月29日、WEB第三文明)。

 高島氏の事例は氷山の一角に過ぎないと筆者は見ている。最近の自民党の国会議員は、若手のみならず中堅でも自分の後援会をきちんと作っていない。選挙になれば公明党とその支持母体である創価学会が、動くのが当たり前だと思っている自民党の国会議員があまりに多い。政策的にも、公明党の平和主義や福祉政策を真面目に学ぼうとせず、創価学会員の信仰にも敬意を払わない自民党の国会議員も少なからずいる。公明党員、その支持母体である創価学会員からすれば、東京の自民党国会議員の態度は傲慢なのである。

 「権力を持っているのはわれわれだから、ブツブツ言っても最終的に公明党は俺たちについてくるしかない」という一部の国会議員の認識を改めさせるためには、選挙協力の解消まで踏み込む必要があると公明党と創価学会が腹をくくったのだと筆者は見ている。次の衆議院議員選挙で東京選挙区の自民党候補はかなり苦労すると思う。

 いずれにせよ、東京で自公関係が難しくなっていることを考慮すれば岸田首相が早期解散・総選挙を決断することはできない。

(作家・元外務省主任分析官)