表現豊かに涙誘う 親への思い切々と 組踊「孝行の巻」公演 国立劇場おきなわ


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おめなりを大蛇のいけにえに祭ろうとすると、おめなりの孝行に感心した神が降臨した=5月13日、浦添市の国立劇場おきなわ

 国立劇場おきなわの組踊公演「孝行の巻」が5月13日、同劇場であった。貧しい母(新垣悟)を支えるため、大蛇のいけにえとなることを志願したおめなり(うみない)(姉・田口博章)とおめけり(うみきい)(弟・高井賢太郎)きょうだいの孝行物語。今生の別れの場面や献身的な2人の思いを田口と高井が表現豊かに演じ、涙を誘った。

大蛇のいけにえになると名乗り出たおめなり(右・田口博章)との別れを悲しみ、呼び止めるおめけり(左・高井賢太郎)

 玉城朝薫作。物語は、子どもを大蛇のいけにえにすれば風水害が収まるとして、王府が志願者を募るところから始まる。志願者には王府から褒賞があるという高札をおめけりが発見。母のためにいけにえになると言うおめけりに、おめなりは「先咲ちやる花や さきどまた散りる(先に咲いた花は、先にこそ散るのである)」と説く。

 その後も弟との問答が続くが、ゆったりとしつつも、おめけりの言葉にかぶさるような田口の唱えに、強い思いや意思を感じた。

 おめなりは潮くみに行くと母にうそをつき、外出の許可をもらう。別れの場面でおめなりを呼び止める高井の泣き出しそうな声や、その後おめなりの思いを歌った「本伊平屋節」が、今生の別れの悲しみや孝行心の深さを表現した。

 おめなりは頭取(玉城盛義)と時の大屋子(嘉手苅林一)らと共に大蛇が住む池に向かう。大蛇がおめなりを食らおうとしたその瞬間、天から神が降臨し、大蛇は消えておめなりが助かる。花火を吹きながらの大蛇登場は迫力満点。笛や太鼓の音色が物語の急展開をより際立てた。

 おめなりとおめけり、母の再会で、これまでふさぎ込んでいた3人の表情が一気に明るくなり、喜びと家族の大切さを切々と感じさせた。

 映画でも紹介された「孝行の巻」。舞台ならではの臨場感が観客を沸かせた。
 (田吹遥子)

※注:高井賢太郎の「高」は旧字体