宮古島市役所に勤めながらミステリー執筆 鮎川哲也賞優秀賞の小松立人さん ビーチでトリック思いつく


社会
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 長編ミステリーの新人賞、第33回鮎川哲也賞(東京創元社主催)の優秀賞にこのほど、大阪府出身・宮古島市在住の小松立人さん(49)の「そして誰もいなくなるのか」が選ばれた。改稿して来年の刊行を予定している。小松さんに小説を書き始めた経緯や今回の作品、今後の抱負などについてオンラインでインタビューした。

「地元色を出した本格推理作品も書きたい」と語る小松立人さん=宮古島市(友寄開撮影)

 ―小説を書き始めた経緯は。

 「小学生の時にポプラ社の江戸川乱歩シリーズを読んで推理小説にはまった。大学4年の時、鮎川哲也先生が編者を務めていた『本格推理』という短編推理小説の公募アンソロジーに応募したら採用され、11巻の一編として出版していただいた。その後はトリックが思い付いた時に趣味程度にしか書いていなかった。5年前に子どもが生まれ、成長のスピードに驚かされた。向こうは登り調子で、こっちは下り坂。抜かれるのをできるだけ先に延ばすため何かを始めようと思い、2年ほど前に本格的に執筆を再開した」

 ―沖縄に移り住んだ経緯は。

 「大阪で働いている時から宮古島が好きで、年に数回遊びに来ていた。それならばいっそ宮古島市役所の採用試験を受けようと思い立ち、合格を機に2012年に引っ越した」

 ―影響を受けた作品や作家は。

 「一番好きで数多く読んでいる作家は島田荘司先生。麻耶雄嵩先生の『鴉』や、今回オマージュしたアガサ・クリスティの『そして誰もいなくなった』も大好きだ。メインのトリックをバラしたら読む意味自体がなくなるような、大ネタ一つで長編を引っ張り、最後の最後に驚くような構造の話を好んでいる」

 ―鮎川哲也賞に応募したのはなぜか。

 「約30年前に短編を採用していただいた『本格推理』は、鮎川先生が全ての応募作品を読み、気に入ったものを採用するという企画だった。鮎川先生に親しみを感じていたし、過去の鮎川賞受賞作が自分の好きな本格推理小説の形に近かった。応募するならここしかないと思った」

 ―今回の受賞作について。

 「何かネタがないかな、と常に考えている。受賞作はまずメインのトリックを思い付き、『これで書けないか』と2週間ほど考えた。ある程度固まってからは2カ月ぐらいで書けた。去年の8~9月ごろだ。物語の設定はメインのトリックに合わせる形で組み立てた。題名から分かるとおり、『そして誰もいなくなった』のオマージュだ。登場人物がどんどん減っていくミステリー感、大ネタ一つで最後に驚いてもらえるように心がけた」

 ―受賞した気持ちを。

 「3月30日に受賞の電話をいただいた。人生最高と言っていいほどうれしかった。ひとり自宅で4リットルのビールを飲みながら、『ロッキー4』のDVDを見て泣いた。自分でも意外だが、受賞連絡の次の日ぐらいには正賞を逃したことを若干悔しく感じた。悔しい気持ちがあった方が今後にもつながる」

 ―沖縄での体験は作品に影響しているか。

 「今回の作品の内容に関して具体的には影響していない。ただメインのトリックは、仕事が終わって遠回りしながら歩いて帰り、パイナガマビーチで一休みしている時に思い付いた。生活環境は大きく影響していると思う」

 ―今後の抱負は。

 「いろんな方のアドバイスを頂きながら、求められるもので自分に書けるものがあれば、何でもやらせていただきたい。気候や言葉を含め、大阪と宮古島では大きく違う。宮古の人たちの気質や生活様式が大好きだ。内地の人たちが知らないような地元色を出した本格推理作品も書きたい」
 (聞き手 伊佐尚記)


ユニークな設定に評価

 「そして誰もいなくなるのか」は、現実ではあり得ない「特殊設定ミステリー」と呼ばれるジャンルの作品。男たちと死に神を巡るユニークな設定が、選考で「面白い」と評価されたという。

 粗筋は、10年前に盗みを働いた4人の男たちが、隠していたお金を取りに行く途中、災害に巻き込まれて命を落とす。すると死に神が現れ、4人に「死ぬ運命は変わらないが1週間だけ時間を戻す」「誰かを殺せば相手の寿命を奪い、数日延命できる」と告げる。

 生き返った4人だが、何者かに次々と殺されていく。互いを犯人だと疑う男たち。死ぬ運命は覆せないのに犯人はなぜ殺したのか、数日でも延命したい理由は何か―。

 今回の鮎川哲也賞の応募総数は186編。正賞は岡本好貴さんの「北海は死に満ちて」だった。選考経過などは10月刊行の文芸誌「紙魚の手帖 vol.13」に掲載される。同月に東京都内で授賞式が予定されている。

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 こまつ・たひと 1974年生まれ、大阪府出身。宮古島市役所に勤めながら推理小説を執筆。本名は「たちと」だが、「こまったひと」に由来するペンネームにした。