【深掘り】抑止力と外交力、戦没者追悼式で交錯した国と県のスタンス 安保3文書巡る溝が浮き彫りに


この記事を書いた人 琉球新報社
沖縄全戦没者追悼式であいさつを終えた岸田文雄首相(手前)を見つめる参列者ら。中央手前は玉城デニー知事(中央左)=23日午後0時46分、糸満市摩文仁の平和祈念公園(小川昌宏撮影)

 政府が昨年末に安全保障関連3文書を閣議決定した後、初めて迎えた沖縄全戦没者追悼式。玉城デニー知事は平和宣言で、南西諸島の防衛力強化の動きに「苛烈な地上戦の記憶と相まって、県民の間に大きな不安を生じさせている」と訴え、現在進められる国策への警戒感を打ち出した。一方、岸田文雄首相は記者団の取材に抑止力強化の重要性を改めて強調。国家が引き起こした過ちと犠牲を振り返る日に、国と県の認識の溝が浮き彫りになった。

式典後に会見で記者の質問に答える玉城デニー知事=23日午後2時ころ、糸満市摩文仁の沖縄平和祈念堂前

 ■知事、抑止力に頼らない姿勢をアピール

 玉城知事は平和宣言で、防衛力強化への懸念を伝えた上で「独自の地域外交を展開し、同地域における平和構築に貢献する」と語り、本年度から始めた地域外交によって地域の安定を目指す考えも改めて示した。抑止力に依存しない平和を追求する姿勢を示した。

 県政を支持する与党議員の一人は「自衛隊だろうがミサイルだろうが、過去に沖縄戦を経験した県民からすれば脅威になる面があるのは間違いない」と指摘する。玉城知事が「対話による緊張緩和」を訴えたことに「政府に、もう少し話し合いに力を入れてほしい思いの表れだ」として宣言を評価した。

 一方、防衛省関係者は「これまでも知事は3文書に対して不快感を示していたので驚きはないが、慰霊の日に言うのが適切なのか疑問だ」と首をかしげた。

式典後に会見で記者の質問に答える岸田文雄首相=23日午後1時すぎ、糸満市摩文仁の沖縄平和祈念堂

 ■首相、現実的な現状認識でくぎを刺す

 玉城知事による平和宣言や、「平和の詩」の朗読後にあいさつに立った岸田首相は「安全保障環境は戦後最も厳しく、複雑な状況」だと語った。

 式典後の会見では南西諸島の防衛力強化や日米同盟の抑止力、対処力の向上が「武力攻撃そのものの可能性を低下させる」との認識も示した。「外交をしっかり進める」としつつ、抑止力の重要性を強調した。

 岸田首相に近い自民党関係者は「国のトップとしてしっかりと現状の認識も言わなければならない」と安保環境の厳しさに言及した背景を説明した。その上で「平和国家としての歩みを貫くことや沖縄の基地負担軽減にも言及し、バランスが取れていた」と評価した。

 これに対し、玉城県政を支える「オール沖縄」関係者の一人は「国と県の立ち位置の違いをアピールできた。有事への懸念が増す中、知事の動きは県民に評価されるはずだ」と語り、今後の政局への影響を見込んだ。

 (知念征尚、明真南斗、佐野真慈)