刻一刻と時間は過ぎる 武井悠(北部報道グループ)<ゆんたくあっちゃ~>


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written by 武井 悠(北部報道グループ)

 昨年秋、沖縄戦の取材で、知人に紹介された一冊の詩集をきっかけに、学徒隊員だった体験者へ連絡を取った。最初は体験内容を理由に取材を断られたが、企画の趣旨を丁寧に説明し、どうにか取材の承諾をもらった。だが取材2日前、家族から連絡があり、本人と会話すると声がほとんど出ず、取材は断念せざるを得なかった。私の心には今でも「あと1週間取材が早ければ話を聞けたかもしれない」という後悔が色濃く残る。

 思い返せば、15歳で大阪大空襲を経験した私の祖母も、その体験の多くについて聞けないまま亡くなった。祖母が戦争体験をあまり語りたがらなかったこともあるが、亡くなる半年前までは元気だったこともあり、心のどこかに「いつでも体験を聞ける」という慢心が生じたのかもしれない。結果として祖母の戦争の記憶を知る機会を永遠に失ってしまった。

 4月から北部報道グループに異動となり、取材で地域の人と関わる機会が増えた。その中には驚くほど元気な高齢者も多い。だが時間は刻一刻と過ぎ、いつまでも待ってくれない。同じ轍(てつ)を踏まないよう、戦争体験に限らず積極的に相手の人生を聞き、記憶を継承することを心がけたい。

(国頭村、東村、大宜味村、伊平屋村、伊是名村担当)


ゆんたくあっちゃー 県内各地を駆け回る地方記者。取材を通して日々感じることや裏話などを紹介する。