子の非行、不登校 家族への支援が重要 「あめあがりの会」代表・春野すみれさん講演 沖縄・さんぽの会10周年


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 子どもの非行や問題行動に悩む保護者らが、悩みを共有したり、専門家を招いた勉強会を開いたりする、おきなわ「非行」と向き合う親たちの会(さんぽの会)は24日、10周年記念講演会「子育ての悩み どう向き合うか」を那覇市首里石嶺町の県総合福祉センターで開いた。多くの保護者や支援者らが参加した。東京の「非行」と向き合う親たちの会(あめあがりの会)代表の春野すみれさんが講師を務め、会発足や自身の子どもの非行、不登校の経験を語り「会を通して頑張っている人がたくさんいると気付いた。『人生おしまい』なんてないと何度も経験した」と語りかけた。

あめあがりの会設立や子どもたちとの経験を語る春野すみれさん=24日、那覇市首里石嶺町の県総合福祉センター

 2人の娘を育ててきた春野さん。長女は小さい時から明るく活力にあふれ、いつも話題の中心にいる子だった。学校生活を楽しんでいる様子だったが、中学2年の時に喫煙が分かり、夜遊びも始まった。「この時から『言葉の裏に何かあるのでは』と娘を見る目が変わった。監視の目で見ていた」

 1日も早く元の娘に戻したい―。その思いで寄り添ったが、状況は良くならなかった。遅い時間になっても家に帰らず、自転車で探し回った。

 長女のことで奔走していた矢先、次女が不登校になった。「できることなら何でもするよ。言ってくれたらよかったのに」と伝えると、「お母さんになんか言わない。お母さんはお姉ちゃんのものでしょ」と返ってきた。

 次女が不登校になった時に相談所に行くと「過保護な家庭の子は不登校、放任の家庭は非行になる」と言われ、夫は別の相談所で「女の子の非行は男親に問題がある」と批判された。子どもの問題は親が責任を取るべきだと考えてきたが「精神的にも物理的にも降参。他の人はどうしているのだろう、同じ思いの人とつながりたいと考えるようになった」。

 当時、子の「非行」で悩む親が集まる会はなく、協力者を探し、1996年に現在のあめあがりの会を発足した。当初は「駄目な親が集まって何をするんだ、と言われないか」と身構えた。しかし、同じ悩みを抱える保護者が全国からやってきて、お互いの話を共有し合った。

 その後長女は成長し、4人の子どもを育てながら工場を経営。次女も通信制の高校を経て専門学校を卒業し現在は子育て中だ。「子どもたちのおかげで自分の見えをだいぶ手放すことができた。2人の子と会に来るお父さんお母さんが私を育ててくれた」と振り返った。

 春野さんが理事を務めるNPO法人非行克服支援センターが実施した調査研究の結果も紹介した。子どもが荒れた時の状態を保護者に聞いたアンケートでは、6割が「死にたいと思うことがある」と回答。「気が沈んで憂鬱(ゆううつ)になる」も97%を超えた。当事者の子どもへの支援はあっても、その家族への支援が少ない現状に「親は鬱(うつ)寸前のような状態で荒れた子と向き合うことになる」と指摘。その状況を理解し、家族に手を差し伸べることの重要性を強調した。

 また、きょうだいへの影響を調べた別の調査では、きょうだいの非行に「教師から兄のことを言われ、学校に行けなくなった」などの声が寄せられた。非行をする子どものきょうだいとして特別視するのではなく「そのままの自分を見てほしいという意見があった」と語った。

 あめあがりの会は活動27年を迎えた。今では沖縄を含め各地に会も発足し、全国ネットワークも構築されている。春野さんは「会につながった人は自分を取り戻して元気になっていくが、つながれない人も圧倒的に多い。時間はかかる問題だが、支援現場の方々にはぜひ協力いただきたい」と話した。

 講演会冒頭では、さんぽの会の10年の歩みについて紹介があったほか、講演後は参加した保護者らを中心に語り合う例会も開かれた。

(吉田早希)


保護者や子の体験1冊に さんぽの会記念誌、1冊1000円

さんぽの会10周年記念誌「さんぽのあしあと」

 さんぽの会による10周年記念講演会の参加者には、記念誌「さんぽのあしあと」も配布された。会が月に1度発行する「さんぽ通信」に寄せられた保護者と子どもの体験談をまとめたもので、当時の悩みや家庭の様子など、それぞれの経験がまとめられている。

 子どもに関する悩みを抱える保護者らに届けようと発行したもので、講演会に参加できなかった人に向けても販売中。1冊千円(税込み)。

 問い合わせはメールokisanpo615@gmail.com または電話070(5403)1930(井形)。

 保護者たちが悩みを語り聞き合う例会も毎月第4土曜午後に開いている。場所は主に県総合福祉センター。例会に関する問い合わせも受け付けている。

(吉田早希)