慰霊への思いと表現 沖縄は平和生み出せる 宮城さつき(フリーアナウンサー)<女性たち発・うちなー語らな>


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 6月23日の「慰霊の日」、私はかつてないほど緊張して、ある絵本の朗読に臨んだ。作家の池澤夏樹さん、画家の黒田征太郎さんのお二人が手がけた「ヤギと少年、洞窟の中へ」の刊行を記念した会でのことだ。池澤さん、黒田さんのお二人はこれまで反戦平和をテーマとした数々の作品を世に出してこられた。そんなお二人が今回題材にしたのがひめゆり学徒だ。

 ヤギを飼っている少年がガマの中へ迷い込み、そこで亡くなったひめゆりの乙女の亡霊と出会う。78年前、このガマの中でどんなことがあったのか、乙女から聞き、少年もまたスパイ視され、日本兵に殺された祖父のことを話す。対話形式で話は展開していく。絵本はほとんどのページが真っ黒に塗りつぶされている。「闇」が問いかけてくるものの深さを感じ、その闇の先に差す光に希望を求めた。

 会場となったのは、ひめゆり学徒の母校があった那覇市の栄町にあるひめゆりピースホールだった。午前中、糸満で行われた慰霊祭に参加したその足で駆けつけてくれた元ひめゆり学徒の皆さまが最前列に座られた。朗読する私のすぐ目の前である。時折、うつむき、肩を震わせる姿に私も声が詰まった。苦しい思いをさせてしまってはいないか、そんな気持ちになった。

 朗読に続き、亡くなられたひめゆり学徒211人のお名前を一人一人読み上げた。卒業証書を手にすることのできなかった乙女たち。私にできることは心を込めてお名前を読み上げることだ、そんな思いで臨んだ。終わった後、元学徒の方々とお話ししたら、名前の度に学友の姿が目の前に現れるようだったとお礼を言われ、救われる思いだった。

 最後に元学徒を代表して翁長安子さん(93)が、「生き延びた者としての使命を背負って生きてきました。皆で戦争を阻止しよう」と力強くごあいさつなさった言葉に、次なるバトンを渡されたうちなんちゅの使命を感じた。

 池澤夏樹さんは「平和は消費されるもの。放っておくと減っていく。だから常に平和を作り出していかないといけない。沖縄はその平和を生み出せる場所だ」と語った。黒田征太郎さんは「あっけらかんと戦争はくだらんと言い続けることだ」と述べた。

 この日はお二人のトークに加え、モンゴル800のキヨサクさんが歌に、喜納吏一さんが三線に、それぞれ思いを込めた。表現の手段は違えど、それぞれに抱く思いは同じで、会場の観客とも心を一つになり得たと強く感じた。こうした場所を増やしていくことが、「平和の創造」につながっていくように思う。