論考「制度的差別」を問う(上)ー野村浩也 当事者の自覚を阻害 基地報じぬ本土メディア


社会
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 沖縄で毎日のように発生し続けている米軍関係者による飲酒運転や犯罪そして事件・事故の究極的な原因は、日米安全保障条約である。安保は日本全国の問題である。したがって、これらのひとつひとつはすべて全国ニュースであるはずだ。

 ところが、「本土」メディアがこれらをまともに全国報道したためしがない。それどころか、沖縄における基地問題全般をまともに報道したためしがない。これこそ「制度的差別」にほかならない。

 70%以上もの在日米軍専用基地を押しつけているがゆえに、安保に起因する問題の圧倒的多数は沖縄で発生している。つまり、沖縄は「安保の現場」である。防衛省や首相官邸が安保の現場なのではない。安保は東京で起きているのではない。沖縄で起きているのだ。

 現場取材は報道の基本だ。ところが、「本土」メディアの実態はというと、意図的にか無意識にか、最初から安保の現場の取材を怠ってきたとしかいいようがない。これは、国民の知る権利への背信であると同時に、基地問題の解決を阻害する意味で悪質である。なぜなら、日本人による圧倒的に過剰な米軍基地の押しつけという基地問題の原因を伝えないことになるからだ。

 基地の押しつけが基地問題の原因である以上、日本人が基地の押しつけをやめないかぎり基地問題は解決できない。解決のためには、基地を押しつけて差別している当事者だという事実を、まずもって日本人自身が自覚しなければならない。ところが「本土」メディアは、基地問題という「日本人問題」から逃避する日本人の暴力的な無関心に加担してきたといわざるをえない。

 それでも、日本人こそ基地問題の根本的な原因にほかならないという事実は微動だにしない。日本人こそ、民主主義によって安保を維持している圧倒的マジョリティーとしての当事者だからだ。したがって、琉球人が基地問題を解決することは不可能である。日本人が原因である以上、基地問題を解決することは、日本人にしかできない。そして、基地問題を解決するもっとも根源的で効果的な方法こそ、日本人が押しつけている基地を「本土」に引き取ることなのだ。

 「本土」メディアは、安保が原因で沖縄で発生する基地問題を恣意(しい)的に「ローカル・ニュース」に分類して全国ニュース化しようとしないが、そもそもそれが差別行為なのである。いいかえれば、「基地問題を報道しないという基地問題」だ。「本土」メディアは、このような「もうひとつの基地問題」を日々蓄積することによって、制度的差別を再生産し続けている。

 こうして、「本土」メディアは、基地問題の当事者である事実を、日本人が自覚することを阻害してきた。結果、基地問題を解決させない要因のひとつとなってきたといっても過言ではない。それが意図的でないなら、まさしく、無意識の植民地主義にほかならない。

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 のむら・こうや 1964年、美里村(現沖縄市)生まれ。上智大学大学院博士後期課程満期退学。広島修道大学教授(社会学)。著書に「無意識の植民地主義」(松籟社)。編著に「植民者へ」(同)。共著に「社会学に正解はない」(同)など。