異議唱える気力を喪失 日本の強大な権力者 菅原文子さんコラム<美と宝の島を愛し>


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菅原 文子さん

 地形と気象から日本史の謎を解く竹村公太郎氏の著書の明快さに、暑さも寒さも吹き飛んだ。とりわけ目を引いたのは、次のくだりだ。大意だけ書くと、東京の中心部に緑地が多いのは、ここにかつて強大な権力者がいたから。強大な権力者は広大な土地を獲得でき、かつ何十年、何百年と、それを保持できる。近代になって国民国家になると強大な権力者はこの国から消えた、という内容だ。しかし竹村さん、この国にはまだ強大な権力者がいるではありませんか、在日米軍ですが。

 竹村氏は環境と歴史遺産保全の観点からこの論を述べているが、かつての封建領主のような広大な土地を持てない国民国家日本において、在日米軍は約80年の長きにわたり、この国に広大な治外法権域を獲得し保持し続けている。客観的な歴史論を展開する竹村氏は、地形と気象からどのように在日米軍の歴史をひもといてくれるだろうか。伺ってみたいものだ。
 その強大な権力で駐留する在日米軍司令部および在日空軍司令部、米第5空軍司令部が置かれる通称横田基地の総面積は、驚くことに約7平方キロで、千代田区の総面積の約6割に当たる。沖縄県内の基地面積の大きさは186平方キロで突出している。在日米軍の強大な権力は、空域、水域にも及び、国民国家日本から強大な権力は消えた、とはとても思えない。

 本紙報道にもあったが、在沖米軍基地から出る化学物質PCB(ポリ塩化ビフェニール)、在沖基地や横田基地由来とみられるPFAS(有機フッ素化合物)の汚染問題は、国民の安全と命を守ることが至上命令の日本政府、とりわけ防衛省にとって深刻な懸念ではないようだ。「在日米軍の廃棄物は米側の管理下にあるので把握が難しい」と説明している。日本人の安全と命を守る意思があるとはとても言えない説明だ。

 PCBと言えば、カネミ油症事件を覚えているだろうか。九州、西日本一帯に当時住んでいた方か、高齢者の方は記憶しておられるだろう。食用油の摂取者に重い障害を残したこの食中毒事件は、半世紀以上前の1968年に起きた。北九州市の「カネミ倉庫(株式会社)」が製造した米、米ぬかを原料とした食用油にPCBが混入し、摂取した妊娠中の女性から生まれた赤ちゃんが色素沈着で黒く、世界に衝撃を与えた。他にも重篤な症状を引き起こし、摂取した人々を苦しめてきた。被害は先天性疾患にも及び、2世代にわたって今も苦しむ被害者がいる。
 事件を受け、72年にはPCBの製造が中止になったが、電気機器などさまざまな分野で使われてきたPCBの廃棄は、環境汚染を引き起こす恐れから、廃棄に関する特措法が制定された。改めてカネミ油症の健康被害を思い出したが、在沖米軍のPCB保有問題に対する防衛省の対応、国内メディアの報道を見ると、敗戦後80年間で日本人全体が米国に洗脳され、日米地位協定の問題点にも関心が薄れ、官民ともにいまさら異を唱える気力も失ったのが今の日本の姿に思える。 

(辺野古基金共同代表)