歌三線「型」突き止め、途絶えた歌を復活 師匠のメモから研究重ね、理論極めた演奏家 「琉球古典音楽」の人間国宝・大湾清之さん


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 沖縄が誇る芸能に新たな人間国宝が誕生する。「琉球古典音楽」で認定される大湾清之さん(76)は、先人が残した宝を受け継ごうと地道に努力を重ね、後進の育成に尽力した。関係者は吉報を喜び、沖縄文化のさらなる発展に期待を寄せる。

人間国宝認定の思いを語る大湾清之さん=那覇市泉崎の琉球新報社(又吉康秀撮影)

 学者然とした異色の演奏家だ。「琉球古典音楽」の人間国宝認定が答申された大湾清之さん(76)は、高度な演奏力に加え、琉球古典音楽安冨祖流の理論に関する研究成果が評価された。人間国宝認定について「(理論の研究という)地味な活動に目を向けてくれたことが一番うれしいし、驚きでもある」と喜びを語る。

 父の清之助(せいのすけ)さんは琉球古典音楽野村流の演奏家。中学から高校まで父に歌三線を教わったが、「反抗期で」遠ざかった。再び古典音楽に向き合ったのは就職後、安冨祖流の宮里春行(はるゆき)さんに出会ってからだ。大湾さんが歌三線の伴奏に必要な笛を吹けるという理由で、職場の先輩だった西江喜春(きしゅん)さんに誘われ、宮里さんに入門。歌三線も習うことになった。

 音楽理論の研究に導いたのも宮里さんだ。ある日、宮里さんが理論に関するメモを書いていた。「それは何ですか」と質問するとコピーをくれた。その時は深く勉強しなかったが、人によって少し歌い方が異なることに戸惑いがあった大湾さんは、理論を学ぶ必要性を感じていた。宮里さんが体調を崩したのを機に「自分でやるしかない」と研究を深めていった。

 安冨祖流の工工四(楽譜)は三線の音のみが記され、歌は口伝で教える。大湾さんはさまざまな工工四や先人の録音などを比較研究し、三線の音の動きによって歌い方が決まる「型」があると突き止めた。その理論を基に、歌の伝承が途絶えていた安冨祖流の「長ヂャンナ節」や「仲節」を復活させた。

 研究が評価されたことに「宮里先生も喜んでいるのでは」と笑顔。「工工四の理論を理解している人はまだ少数だ。大勢の人に広げ、琉球古典音楽を継承していきたい」と気を引き締める。

(伊佐尚記)


笛も名手、「仲節」を復曲 古典音楽関係者ら功績賞賛

 大湾清之さんが「琉球古典音楽」の人間国宝に認定されることを受け、古典音楽関係者から喜びの声が上がった。

笛の名手でもある大湾清之さん(右)。安冨祖流絃聲会の95周年公演では西江喜春さんの伴奏も務めた=2022年12月11日、那覇市の琉球新報ホール

 「組踊音楽歌三線」の人間国宝、西江喜春さんは、大湾さんを師匠の宮里春行さんに紹介した。「安冨祖流から(人間国宝が)出たことが一番うれしい。彼の研究が認められたことも大きい」と喜んだ。大湾さんは笛の名手でもあり「笛と歌三線の両方を演奏するのは難しいことだ」とたたえた。

 「琉球古典音楽」の人間国宝で野村流の演奏家である中村一雄さんは、琉球古典芸能コンクールを受験する中で同い年の大湾さんの存在を意識したという。「彼の“演奏心(ごころ)”を目標にしていた」と明かす。中村さんは「三線はお互いの信頼関係がないと良い形で(一緒に)歌えない。大湾さんは自然に演奏に入っていける雰囲気を持っている」と語った。

 安冨祖流絃聲会会長の照喜名進さんは、安冨祖流で伝承が途絶えていた「仲節」などを大湾さんが復曲したことに触れ「功績は大きい。理論面でも大湾先生の右に出る人はいない」と話す。安冨祖流では照喜名朝一さんに続く琉球古典音楽の人間国宝誕生となり「大きな責任を負ったと思うが、とても名誉なことだ」と祝福した。

(田中芳)

 

琉球古典音楽 琉球王国時代に士族が中心となって継承し、現在に伝承される伝統音楽。湛水(たんすい)流、安冨祖流、野村流がある。三線と密接に関わって発展し、箏(こと)や笛、太鼓などを伴奏楽器に加えて発展した。三線は弾きながら歌うもので「歌三線」とも呼ばれ、琉球古典音楽の中心となる。独立した音楽として演奏されるほか、組踊や琉球舞踊に欠かせないものとなっている。