<書評>『観光と「性」―迎合と抵抗の沖縄戦後史』 政治・経済の変化で複雑化


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『観光と「性」―迎合と抵抗の沖縄戦後史』小川実紗著 創元社・3520円

 本土復帰50年。沖縄戦後史を捉えなおす中に、この著作も新たな光を放っている。1950年代から現在までの「本土・アメリカへの屈折と『性』をめぐる闘争」は、沖縄の裏面史にとどまらない。

 「1章・戦後の混乱と観光言説の出発」中、米国民政府渉外報道局長兼観光協会顧問バーツ氏の「沖縄にとって真の観光市場はこの沖縄に一時在留している5万人の米人であります。多くは2年間沖縄に滞在します。彼らは沖縄に娯楽施設が欠けていることに当惑しているのです。洋式ホテルもない」(1958年4月号「観光沖縄」)という発言に驚愕(きょうがく)し納得した。占領者側には軍事駐留ではなく長期旅行者の意識だったのだ。被支配者側とのこのギャップ!

 「3章・海洋博批判とセクシュアリティ観光の接合」では、復帰の起爆剤として開催された海洋博「海―その望ましい未来」が、単に予定入場者数100万人減だけではなく、北部地域には、建設労働者があふれ、土地売買などで現金を得た者の行動などで女子高校生たちが巻き込まれた社会混乱があったし、本土企業に収奪されたことなど、深い傷はいまだ残る。

 「終章・『沖縄観光』言説からみる戦後」では、「沖縄では、単なるセクシュアリティやジェンダー、『男と女』の問題としてだけでなく、基地と沖縄、本土と沖縄の関係と密接に結びついているため、総合雑誌や論壇雑誌で、社会問題としてかたられやすかった。そのため、沖縄のセクシュアリティ消費の問題は、分析可能な資料として残りやすいという特徴を持ち」「観光を通して浮かびあがる本土と沖縄の権力関係を象徴的に表しているのが、観光とセクシャリティの問題であった」

 戦後78年、今なお米軍の海外駐留が世界最大規模の沖縄で、米兵相手のセクシュアリティ観光は、政治・経済構造の変化でさらに複雑化しているといえる。

 著者は、中学生の修学旅行で来た沖縄で、真っ暗なガマに入り戦争の追体験した後すぐにボートではしゃぐことへの違和感からこの分野につながったという。平和教育の在り方も提起している。

 (高里鈴代・「基地・軍隊を許さない行動する女たちの会」)


 おがわ・みさ 1993年大阪府生まれ、立命館大等講師。主論文に「反復帰論高揚期における沖縄観光言説」「海洋博批判とセクシャリティ観光の接合」など。