【寄稿】大湾清之さん人間国宝に 安冨祖流の大家・金武良仁の「型」再発見 (金城厚・県立芸大名誉教授)


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安冨祖流絃聲会の95周年公演で「長ヂャンナ節」を斉唱する大湾清之=2022年12月11日、那覇市の琉球新報ホール

 昨秋は、希代の天才的演奏家であった安冨祖流の人間国宝、照喜名朝一さんが亡くなって、沖縄中が悲しみに暮れたところだったが、このたび、新たに大湾清之さんが人間国宝に認定されたと聞き、組踊の西江喜春さんとともに安冨祖流の伝統がしっかり引き継がれていることに大きな喜びと安堵(あんど)を感じた。

 大湾さんといえば、笛の演奏家だと思っている方が多いかもしれない。確かに、大湾さんは早くから三線とともに笛を手がけ、1986年には笛奏者として、国の重要無形文化財「組踊」の総合認定に名を連ねておられる。舞台上でも笛の演奏を多く務めておられ、笛の優れたお弟子さんも数多い。しかし、1966年に宮里春行さんに師事して以来、一貫して歌三線の道に傾注し、安冨祖流の演奏法について深く研究を重ねてこられたことは、知る人ぞ知る事実である。

 大湾さんが人間国宝に認定された理由は、報道によれば、演奏の評価とともに「琉球古典音楽の理論的研究にも取り組み、安冨祖流で伝承が途絶えた『仲節』『長ヂャンナ節』などの復曲も行った」ことにあるという。このような大湾さんの研究の根源は、実は金武良仁の演奏の再評価にある。

 安冨祖流演奏家の金武良仁は、昭和初期の琉球古典音楽界を代表する大家として、初めて東京公演を行い、SPレコードによる録音を残しているが、この古い録音を聴くと、現在の安冨祖流の演奏とは異なるところがあるという。現代の演奏家の間には、意に介さない声もあるようだが、大湾さんはこの古い録音にこだわり、工工四を読み込むなかで金武良仁の「型」を再発見したのである。

 安冨祖流の工工四には、三線の手だけが書かれており、歌のフシは師匠からの口伝で学ぶことになっている。これを「不便だ」と思う人もいるかもしれない。しかし、口伝で重要なことは「型」を学び、伝えることである。「型」がしっかり伝わっていれば、洋楽のような細かい楽譜がなくても、歌のフシを演奏することができる。

 大湾さんは、この「型」を見いだし、それを実演によって後進に伝える試みを積み重ねてこられた。『仲節』『長ヂャンナ節』の復曲も、その「型」の延長線上で可能になったといえよう。そして、独演会を積み重ねてそれらを舞台上で表現してこられた。これこそが古典の技芸を正しく継承して後進に範を示す、という人間国宝の理念にかなっている実演家として評価されたゆえんだろう。
 (県立芸大名誉教授・琉球音楽論)