サポートの輪を社会全体に 医療的ケア児の支援向上へ、県の拠点施設が開所 悩み相談、保育・教育現場への橋渡し担う


この記事を書いた人 琉球新報社
医療的ケア児支援センターの開設を喜ぶ当事者や支援者ら=28日、那覇市寄宮の沖縄南部療育医療センター

 日常的な呼吸管理やたんなどの吸引が必要な医療的ケア児の支援課題を全県的に集約・共有し、支援レベルの底上げを目指す県医療的ケア児支援センターが28日、那覇市寄宮にある沖縄南部療育医療センター(當山潤院長)内に開所した。同日、同医療センターで開所式が行われ、出席者全員が社会全体に支援の輪が広がることを期待し、門出を祝った。

 同支援センターには医師2人と医療的ケア児の専門知識を持つコーディネーター2人などが常駐し、家族の悩み相談だけでなく、各市町村などと連携していく。

 同支援センター長も兼ねる當山院長は、医療機器や在宅支援が向上しても「ケア児の活動の場はまだまだ狭い」と説明。「教育や保育などの場で、子どもに合ったケアがうまく適応するように橋渡しをしていく」と抱負を語った。

 人工呼吸器付きの車いすで出席した那覇商業高校1年の仲村陵磨さん(16)は、関係機関の協力で4月から同療育センターに入所できたことに感謝する。自身の体験を基に「医療的ケアが必要な人でも、やりたいことができるように応援してほしい」と、支援に関わる大人たちに期待した。

 県障害福祉課によると、県が把握する医療的ケア児は今年4月時点で468人。支援センターの相談対応は午前9時から午後5時まで。土日祝祭日、年末年始は除く。問い合わせは、電話098(894)6820。 

限られた支援、乏しい情報…在宅療養の苦悩 連携体制の拡充が急務

県医療的ケア児支援センターの事務所=28日、那覇市の沖縄南部療育医療センター内

 県医療的ケア児支援センターのコーディネーターや県などによると、当事者家族からは「相談先がない」「きょうだい児の支援がない」「子どもを預ける施設がなく、親の就労先が見つからない」などの声が寄せられているという。

 医療的ケア児の福祉的な支援は、高齢者に比べて少ないと言われる。病院から在宅療養に移行すると、保護者自身で支援サービスを探さざるを得ない状況も多い。

 行政側も相談員を配置しているが、コーディネーターの嘉数典子さんによると「相談する相手も場所も分からなかった人や、退院後に子どもと家にこもって外の世界を遮断してしまう親もいる」と説明し、当事者への周知や支援機関とのつながりの重要性を強調した。

 ケア児の預け先が少ないのも、親の休養や就労などにつながる課題の一つだ。県は今年、障がいのある子や大人を受け入れる県内の短期入所施設120カ所に、医療的ケア児の受け入れ状況を調査した。精査が必要のため、具体的数字は公表できないとしながらも、対応施設は「かなり少ない」という。

 当事者家族のニーズに応える環境を整えるため、支援センターの業務管理を務める安部由佳さんは「入所施設側にも人員配置などの事情もあるが、受け入れ先を広げるため、関係機関で連絡会議を立ち上げることも構想している」と語った。

(嘉陽拓也)