琉球王国時代から伝わるサバニ文化の奥深さ 糸満の船大工が2年ぶりに「南洋ハギ」製作、伝統継承へ 沖縄


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 【糸満】漁船の主流が、木造のサバニからFRP(繊維強化プラスチック)製に置き換わって久しい。海人のまち・沖縄県糸満市でサバニの伝統製法を受け継ぐ舟大工の大城清さん(73)は2年ぶりに、サバニの一種「南洋ハギ」を製作している。市内で南洋ハギの製法を知る舟大工は大城さんら70代の2人のみ。大城さんは「かつて糸満の舟大工たちが切磋琢磨(せっさたくま)して磨いたサバニ製作の技術を、文化として後世に残したい」と、文化継承の必要性を訴える。

完成間近の「南洋ハギ」を前に、「かつて糸満には大勢の舟大工がいて、技術を競っていた」と振り返る大城清さん=21日、糸満市西崎町

 琉球王国時代から使用されたサバニは、一本の木をくりぬく「マルキンニ(丸木舟)」と、複数の板をはぎ合わせた「ハギンニ(本ハギ)」に分かれる。南洋ハギはハギンニの一種。太平洋戦争直前のサイパンで考案され、本ハギの製法が簡略化された。丈夫でしなやかな飫肥(おび)杉(宮崎県)の板を曲げてはぎ合わせ、くぎを使い仕上げる。本ハギと比べると材木が薄く工期も約2カ月と短いため経済的な一方、くぎを使わない本ハギより耐久性は低いとされる。

 15歳で舟大工になった大城さん。漁師を経て舟大工として生きた父・松助さんからサバニの技術を受け継いだ。「物心ついた頃には、父が次々に南洋ハギを作っていた。物資不足の戦後、南洋ハギは重宝され、糸満漁業を支えた。仲間の作った舟を改良し、より良い舟を作る。そうやって大勢の舟大工の手で技術が磨かれた」と振り返る。

 近年、サバニは各地のハーリーのほか、県内外の愛好家によってレジャーやレースで使われている。大城さんもハーリーやレース用に、年1隻ペースでサバニを製作している。今回の南洋ハギは県内愛好家の発注だ。完成間近の舟を前に「軽量化するために骨組みを入れず、木の張力を利用して強度を保つ工夫をした。作れば作るほど上手になるものだ。これは90%の出来栄え」と笑った。

 大城さんは技術を伝えるため、1隻ごとに寸法図を書き残している。より詳細に記録するため、今後は製作過程の動画撮影も考えている。「昔の人は帆掛けサバニを操り島から島、本土までも渡った。サバニは奥が深い。文化を衰退させないため、観光への活用や、体験活動など子どもたちに伝える取り組みも必要だ」と力を込めた。

(岩切美穂)