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【識者】麻生氏発言「一線越す挑発」 緊張利用、日台政界に ジャーナリスト・布施祐仁氏 


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社
布施祐仁氏

 自民党の麻生太郎副総裁が8日、訪問先の台湾で講演し、中国の台湾侵攻を抑止するために、日本にも「戦う覚悟」が求められているなどと主張したことについて、ジャーナリストの布施祐仁氏に聞いた。

 台湾の防衛のために日本の防衛力を使うという麻生氏の発言は、他国の防衛ではなく、日本の防衛のための必要最小限度の武力行使しか許されないとする政府の憲法解釈に反し、専守防衛の国是からの逸脱だ。

 さらに1972年の日中共同声明で、台湾を領土の不可分の一部とした中国政府の立場を十分理解し、尊重するとした中国との合意にも明確に反する。中国の台湾に対する威嚇に反対し、台湾問題の平和的な解決を求めるのは当然だが、麻生氏の発言は一線を越えて中国を挑発するもので、緊張を高めるのは必至だ。  

 麻生氏は2021年にも、台湾有事になれば日本は米国と共に台湾を防衛しなければならないと講演で発言していた。今、麻生氏を台湾で講演させれば、このような発言をすることは予想された。つまり、受け入れた台湾、送り出した日本の双方に、中国が反発して強硬な態度に出るのを望ましいと思う政治勢力がいるということだ。来年1月に総統選を控える台湾では中国とは対話できないというイメージを強めるため、日本では南西諸島の軍備強化などの軍拡の理由付けとするためと考えられる。

 政治的なカードとして台湾問題を使っている政治家がいる一方、緊張感の高まりは偶発的な衝突も含めて戦争のリスクを高める。特に沖縄は、実際に武力衝突が起これば巻き込まれる可能性が高い。中国は台湾の独立は武力を用いてでも阻止する方針だが、「平和的統一」の原則は変えていない。台湾は独立を目指しておらず、米国も台湾の独立は支持しないという立場を変えていない。台湾有事を起こさないようにするには、この現状を維持することが肝要だ。  

麻生氏の、戦争を抑止するために「戦う覚悟」が必要という、軍事力による抑止力一辺倒の思考は危うい。際限のない軍拡競争と、軍事力の誇示による緊張感の高まりにつながってしまう。信頼醸成、緊張緩和のための外交・対話なしでは平和はつくれない。(談)