「学校行かなくても生きていける」「苦しみから逃げて」 かつて命を絶とうとした女性が伝えたいこと


この記事を書いた人 Avatar photo 高江洲 洋子

 子どもの自死が増える時期として警鐘が鳴らされてきた、夏休み明け。県内では1日までに全ての公立学校で2学期、または1学期後半がスタートした。私たちにできることは何か。幼少期から積み重なった孤独感で、高校2年の時に自ら命を絶とうとしたことがある詩人でエッセイストの豆塚エリさん(30)=大分県=は「どうか自分の人生を終わらせないで。世界は広い、自分の居場所は必ず見つかる」と語る。かつて自らの死を選んでしまった経緯や今の思いを聞いた。
(聞き手・嘉数陽)

豆塚エリさん(本人提供)

 

ーどのような生い立ちだったか。
 「私が3歳の時に母は義父と結婚し、4年後に妹が生まれた。小3ぐらいの時、たまたま家に戸籍謄本が置いてあって、見ると私が養女で妹が長女になっていた。衝撃を受けた。2人の実子である妹に引け目を感じていたし、成長した私を、母はよく実父に似て憎たらしいと言った。私はこの家族に要らないんじゃないかと孤独感は強くなるばかりだった」
 「義父はあまり家にお金を入れず、仕事好きな母は育児を放棄して仕事に出始め、家にいることが少なくなった。母は在日韓国人で日本語が得意ではなかった。そのため仕事を選べず安い時給の仕事しかなくて、食べる物にも困った。私は母の代わりに家事をこなした。私の存在を認めてほしくて積極的にやった。母は私を頼っていて共依存の関係だったと思う。母と義父は、私が高校入学前に離婚した」

■家にも学校にも居場所なく

 ー家族のことを大人に相談したことは。
 「義父は酔うと暴言を吐くし母は私をののしるし、2人から体罰もあった。でも大人に親のことを話すと『親のことを悪く言っちゃダメだよ』とか『親は子どものことを愛してるものだよ』とか、逆に私の印象が悪くなるので話さなくなった。人間関係がうまくやれずに、友だちとの間でも孤独になって、学校にも居場所がないと思った」
 ー高2で自死を選んだ原因は「どこにも居場所がない」という孤独感だったのか。
 「県内随一の進学校での学業不振と、どうしても改善されない母親との関係から逃げ出したかった。お金がないから自立もできないし学校にもいたくない、もう死ねばいいと自死を図った」
 ー病院で目を覚ました時、どう思ったか。
 「矛盾しているけど、(死のうとした時)とても怖かった。だから目が覚めた時は、正直、生きていてよかったと、ほっとした。頸髄(けいずい)を損傷して障がいが残ると分かっても、そんなことより入院して生活が整い、母親と離れて暮らせたことで、楽になり死ぬ動機がなくなった。退院後は訓練施設に、退所後は自立生活センターに就職して一人暮らしを始めた」

自身の経験を講演で語る豆塚エリさん(本人提供)

■親との離別で楽に

 「その後はデザインの勉強をしたり、好きだった執筆活動をしたり、勧められて書いた小説が太宰治賞の最終候補になったこともあった。今でも全てが順風満帆というわけではないが、苦しみの原因だった学校と家族から離れて、楽しいとか好きとか、共感や尊敬をいろんな人と共有するようになって、その過程で、どこにも居場所がないという感覚はなくなっていった」

 ー今、苦しんでいる子どもに言えることは。
 「死にたいと思っている人に言葉は届かない。私がそうだった。でも、どうか届いてほしい。とにかく死なないで、人生を終わらせないで。世界は広い。自分の居場所は必ず見つかると信じてほしい。例えば学校に行かなくても生きていける。苦しみから逃げるように生きてほしい。子どものうちは家と学校ぐらいしか行き来しないから、この両方で居場所を見つけられないと、もう居場所がないように感じてしまう。でもそんなことは絶対にない。死ぬ以外で、苦しみの原因から逃げる方法を探して」
 「私は小説の執筆が大きな転機になった。最初は迷ったが、書くことが好きだったから、書き始めると楽しくて頑張っちゃった。自分がやりたいと思うことに突き進むと、その過程で気が合う人や、対等に話せる人と出会うことができる。自分に自信がつくし、出会う人たちに力をもらえる」
 

豆塚エリさん著書「しにたい気持ちが消えるまで」

■愛情表現や関係性を大事に

 ー周りの人たちにできることは。
 「『苦しんでいる子に何と声をかけたらいいですか』と、よく取材や講演会で質問を受ける。繰り返しになるが、死にたいと思っている人には、もう言葉は届かない。だからその前にできることをしなければならない」
 「言葉に頼らないコミュニケーションを取ることが大事な方法の一つだと思う。言葉の持つ力は大きいが、求められているのは適切な愛情表現や、関係性だと思う。例えば猫は愛情を求めてすり寄ってきたり、空腹ならずっと鳴いて呼び掛けてきたり、自分の要求を伝えてくる。私たちは猫の言葉が分からないのに、今はなでてほしいんだなと、気付くことができる」
 「その人が何を求めているかに気付き、その時に適切なコミュニケーションを取ることが大事だ。それから『いのちの電話』など相談窓口の存在とアクセス方法を日頃から教え続けることも大事。身近に相談できる人がいなければ、そういう窓口に助けを求めることができると発信してほしい」

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◇沖縄県内の主な相談窓口
▽県立総合精神保健福祉センター・こころの電話相談
098(888)1450(月・水・木・金の午前9時~11時30分、午後1時~4時30分)
▽沖縄いのちの電話
098(888)4343。午前10時~午後11時。

◇厚生労働省が自殺防止のためホームページで紹介している主な相談窓口は次の通り。
▽いのちの電話
(0570)783556(午前10時~午後10時)
(0120)783556(午後4~9時、毎月10日は午前8時~翌日午前8時)
▽こころの健康相談統一ダイヤル
(0570)064556(対応の曜日・時間は都道府県により異なる)
▽よりそいホットライン
(0120)279338(24時間対応)

 

まめつか・えり 1993年、愛媛県生まれ。詩人、エッセイスト。在日韓国人の母、日本人の父との間に生まれる。6歳の時に母と義父の3人で大分県へ転居したが、高校入学前に両親が離婚。母と二人暮らしに戻る。高校2年16歳の時、自死を図り一命を取り留めたが頸髄(けいずい)を損傷し、車いす利用者となった。現在は別府市を拠点に執筆や講演をして活動している。著書は「しにたい気持ちが消えるまで」(発行・三栄)など。