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アリーナ新時代刻む 「世界一の練習量」結実 チーム力で格上破る <バスケW杯の激闘 沖縄でつかんだパリ切符・上>


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カボベルデ戦の第1Q、E・タバレス(右)をかわして切り込む日本の河村勇輝=2日、沖縄アリーナ(小川昌宏撮影)

 試合終了のブザーとともに、沖縄アリーナを地鳴りのような歓声が包んだ。日本代表が史上初めてバスケットボールのワールドカップ(W杯)で勝ち越しを果たし、48年ぶりにパリ五輪の出場権を自力で獲得した。毎試合、ヒーローが現れる熱戦を振り返るように、選手らは抱き合い健闘をたたえ合った。チームを鼓舞し続けたエース渡辺雄太は目を赤くして、顔をユニホームでぬぐった。

 「周りからいろんなことを言われてると思うが、このチームで誰一人、不可能と思ってる選手、スタッフはいない」。初戦のドイツ戦の前日となる8月24日、記者会見で主将の富樫勇樹は自信をのぞかせた。根拠となったのは「世界一の練習量」だった。

■「死の組」

 日本が組み込まれた1次リーグのE組は大会前から「死の組」と表現された。世界ランク3位のオーストラリアを筆頭に、ドイツ、フィンランドと格上の強豪国が名を連ねた。日本は大会直前の強化試合でも、欧州のフランス、スロベニアに敗戦。W杯でも厳しい闘いが予想されていた。

 日本は開幕2カ月前には選手が合流し、本格的な練習を開始した。他国が擁した米プロリーグNBAの選手らに練習の制限がかかる中、Bリーグ選手が主体の日本は他国よりも1カ月以上長くチーム練習を積むことができた。

■全員がMVP

 初戦のドイツ戦を落とし、迎えた2戦目のフィンランドに対し、日本はチーム力を発揮する。NBAジャズのエース、ラウリー・マルカネンを筆頭に、2メートル超の選手6人を擁する相手に対し、オールコートで厳しく当たるプレスディフェンスを随所で展開し、ミスを誘った。第4クオーター開始時で10点のリードを許したが、豊富な運動量と速さで上回り、終盤はガードの河村勇輝らが躍動。大逆転劇へとつながった。

 3日の記者会見でMVPを問われたトム・ホーバス監督は「全員だ」と断言。「全員が迷わずに自分の力を使う。だから全員必要だ」と強調した。

■インサイドの闘い

 沖縄アリーナで開催されたFIBAバスケットボールワールドカップ(W杯)2023の登録選手で、日本の平均身長は192センチだった。1次リーグで対戦したドイツ、オーストラリアはともに199センチ、フィンランドは200センチと、7~8センチ、相手国が上回っていた。ゴール下に近いインサイドで劣勢を強いられるのは当初から明らかだった。パワーフォワードの八村塁が欠場となる中、リバウンドが大きな課題になるとみられていた。

 日本のセンターのジョシュ・ホーキンソンは大会前に「役割はしっかりとインサイドで守ることだ。特にディフェンスの部分」と語っていた。ホーキンソンは1試合40分の中で、5試合平均の出場時間は約35分と多くの時間、コートに立ち続けた。1試合の平均リバウンドは10・8で、暫定ながら全出場選手の中で2位につけるなど奮闘。大黒柱として攻守にわたって日本を支えた。

日本―カボベルデ パリ五輪出場を決め、記念撮影に応じる日本の選手たち=2日、沖縄市の沖縄アリーナ(小川昌宏撮影)

 
■新戦力の躍動

 前回2019年のW杯、東京五輪と出場してきた渡辺雄太、馬場雄大、比江島慎、国内外でプレーしてきた富樫勇樹など経験豊かな選手を土台に、初出場の若手選手らが躍動してチームに勢いと爆発力を与えた。

 司令塔としてコートに立ち続けた河村勇輝はドリブル技術とスピードで外国人選手を何度も抜き去り、レイアップやアシストを決めた。アメリカの大学でプレーする富永啓生はカボベルデ戦で6本のスリーポイントを沈め、成功率75%と圧巻の活躍を見せた。積み上げた経験の上に新たな戦力が融合したことで、国際大会での連敗の歴史に終止符が打たれた。

 パリ五輪は1年後に迫る。最終戦の終了後、富永は「これからが日本のバスケの始まり。これは第一歩」と語り、成長し続けることを誓った。日本代表として戦った選手らは、それぞれのチームに戻る。秋には国内外でバスケの新シーズンが幕を開ける。各チームが切磋琢磨(せっさたくま)し、選手のレベルが上がれば代表チームの強化にもつながる。五輪での躍進はこの1年間の成長に大きくかかってくる。

(池田哲平)


 強豪国から3勝を挙げ、沖縄アリーナでの激戦は語り継がれることになる。日本代表が躍動した大会を振り返る。