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97歳マジシャンが敬老会で不思議の世界にいざなう 読谷村の渡口彦信さん ショーを続けて半世紀も直面する“引退”の時 「種も仕掛けも暴露しちゃうかも」 


97歳マジシャンが敬老会で不思議の世界にいざなう 読谷村の渡口彦信さん ショーを続けて半世紀も直面する“引退”の時 「種も仕掛けも暴露しちゃうかも」  扇からお金を生み出す「金の成る扇」を披露する渡口彦信さん(提供)=17日、読谷村の古堅公民館
この記事を書いた人 琉球新報社

 【読谷】読谷村の古堅公民館で17日、敬老の日を前に開かれた敬老会で、渡口彦信さん(97)がマジックショーを披露し、参加者を不思議の世界にいざなった。50年近く趣味でマジックを続けているが「最近は物忘れも多くなり、体力も減ってきた。今年で最後かな」とショーの引退を考えている。

 会社経営の渡口さんが初めてマジックを見たのは1973年。友人と大分県別府市の旅館を訪ねたのがきっかけだった。夕食後の出し物として女将がマジシャンを招いていた。マジシャンに「空中で赤い布が泳いでいます。皆さんにも見えますか」と問いかけられるも、空中にはほこりすら浮かんでいなかったという。マジシャンは空気をつかみ、次の瞬間には手から赤色の布を出現させた。驚きとともに「自分にもできないか」と考えたという。

 「沖縄に道具を送ってほしい」とマジシャンに頼み込み、快諾してもらった。

 会社の昼休憩には社長室に鍵をかけてマジックを練習した。最初のショーは嘉手納町商工会の総会だった。会員らを前に緊張した面持ちで「種も仕掛けもございません。よくご覧下さい」と注目を集め、新聞紙に注いだ水を消したり、手をくぐらせてハンカチの色を変えたりと魔法のような技を披露し、拍手が湧いた。それから50年、あらゆるステージに立った。

魔法を込めた手の中をくぐると色が変わる「魔法のハンカチ」を披露する渡口彦信さん(提供)=17日、読谷村の古堅公民館

 今でも技に衰えは感じさせないが、体に老いを感じるという。「冷蔵庫の前に立つと、何を取りに来たか思い出せないんだよ」と笑う。「不思議の世界にいざなうのがマジシャンの仕事だが、もしかすると種も仕掛けも暴露するかもしれない」と語り、今年限りでの引退を考えている。

 17日は約60人を前に堂々とマジックを披露した。会場からは大きな拍手が送られた。「驚いた顔を見ると寂しくなった。素人ながら続けてこられたのは見てくれる人がいたからだな」と感謝した。 (名嘉一心)