「熊本の家族に感謝」 大会前に被災 宮古島トライアスロン


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震災のあった熊本県から出場し完走した磯見洋一さん=17日、宮古島市陸上競技場

 【宮古島トライアスロン取材班】今年も、多くの笑顔と涙のドラマが島を彩った。第32回全日本トライアスロン宮古島大会(宮古島市、琉球新報社主催)は17日、1277人の完走で幕を閉じた。大切な人への思いを胸に走った人や家族の後押しで出場を決意した人、最後の大会に思い出をかみ締めた人―。誰もが自分の物語に新たな一ページを刻み込んだ。

 「完走できて本当によかった」。熊本の家族や仲間への思いが背中を押した。14~15日に強い地震の被害にあった熊本県から出場し、完走を果たした磯見洋一さん(30)は大好きな宮古島の地でゴールテープを切った後、少し涙ぐみながら熊本で待つ家族や仲間への感謝の言葉を何度も口にした。
 磯見さんがトライアスロンを始めたのは3年前。仕事の傍ら、トレーニングを続けてきた。昨年初めて宮古島大会に出場したが、悪天候でデュアスロンに終わった。「また出場したい」。そう誓い、調整を続けてきた。
 宮古島に向かう前日、熊本県葦北郡の自宅で震度5の揺れに襲われた。これまでにない横揺れに驚き、テレビに映される熊本市や益城町の惨状に心を痛めた。自宅や家族に被害はなかったが、宮古島に向かうべきか悩んだ。
 「ここは大丈夫だから行ってき」。父親や仕事仲間に背中を押され、出場を決断した。宮古島に到着した16日深夜にも強い地震があり、津波注意報も出た。「地元が大変な時にここにいていいのか」と何度も後ろめたさを感じた。それでも送り出した仲間たちの顔を思い浮かべ、「絶対に完走しよう」と誓った。
 大会当日はバイクとランで自身の記録を更新し、完走した。18日には熊本に戻る。混乱する地元に帰った後は不安もある。
 「送り出してくれた人たちにまず感謝をしたい。そしてまた絶対に来年も出たい」。磯見さんは前を向き、笑顔を見せた。