連載「希望この手に」

食卓囲み 子を見守る 地域の大人と「ごはん会」

食事作りの後、談笑しながら食卓を囲む参加者=4月末、那覇市内の公立公民館

那覇市内の公民館

 4月下旬、那覇市内にある公立公民館の調理室に、エプロンを着けた子どもたちが集まった。「地域の人が届けてくれたマグロ1匹を解体して冷蔵庫に入れているよ」。職員が声を掛けると、子どもたちが冷蔵庫の中をのぞき込む。「うわー、こんなたくさんの刺身って初めて見た」。次々に歓声が上がる。
 公民館は月1回、地域の子どもと公民館職員、民生委員・児童委員、学校関係者が一緒に夕食を作り、食卓を囲む「ごはん会」を開いている。公民館と、那覇市牧志にある若者の居場所「kukulu」が共催する。公民館は市の委託で「特定非営利活動法人1万人井戸端会議」が運営。地域で生活する家族の社会的孤立を解消しようと、「居場所」づくりのため昨年12月にごはん会を始めた。会では調理や会食を通し、参加者が人間関係を育む場になっている。
 門戸を広く開いているが、児童委員・民生委員が直接、児童や保護者に参加を呼び掛けることもある。不登校、ひとり親世帯に加え、親が病気がちで寂しさを抱えがちな子どもたち。親から調理を教わった経験のない子どもたちもいる。「居場所」には、さまざまな事情を抱えた子どもたちと保護者が集う。
 4月末に開かれた「ごはん会」の献立は、マグロの照り焼きと炊き込みごはん、麩(ふ)のサラダ。子ども9人、大人12人が参加した。調理後は、全員で食卓を囲む。小学生が怪談話をそらんじると、高校生が「分かる」と相づちを打つ。家族だんらんのような雰囲気に、参加者の表情が和む。
 小学生の息子と一緒に訪れた母親は「気弱な性格で、強く出られないところがあり不登校になっている」と心配そうに話しながらも、「ここでは生き生きと調理しているし、お兄ちゃんたちと交流する機会があるからか、楽しそうにしている」と続けた。小学校高学年の女児は「大勢で食卓を囲んだ経験がないから、楽しかった」と笑顔を見せた。
 運営を支えるのが地域の大人たち。野菜を栽培している有志グループが毎月、野菜と運営費5千円を寄贈する。学校のPTAから食材の提供もあった。地域拠点ならではのネットワークだ。
 公民館は高校の中退防止対策の一環として、近くの高校生の研修生を受け入れており、これまでの活動が「ごはん会」に結実した。
 毎月の会終了後は、大人たちが集まり、困窮や保護者の病気といった課題が背景にある子と家庭の支援策を話し合う。「振り返り」と呼ぶ討議の場だ。対応が難しいケースは、就学援助や相談機関などにつなげる。
 アドバイザーはkukuluを運営する「NPO法人沖縄青少年自立援助センターちゅらゆい」の金城隆一代表理事。不登校支援に詳しい金城代表理事は「学校に戻した方が良いのか、居場所と学校を行ったり来たりできるようにするのか。一人一人の“出口”を意識して、段階に応じた支援策を講じてほしい」と助言する。
 民生委員・児童委員の一人は「生きる力を身に付け、自己実現できるような後押しをしたい」と意欲を見せる。「一人一人の個性が生かせる空気をつくりたい。支援される側とする側の関係ではなく、時には子どもたちがお世話になっている人を招く機会を持ってもいい」と南信乃介館長は言う。
 地域資源とネットワークを土台にして、地域の子どもを地域で見守る。公民館ならではの実践活動は、子育て世帯の孤立を解消するヒントになりそうだ。
(子どもの貧困取材班)



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