「普通」って何?(下) 「自分らしく堂々と」


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自らが営む店で接客する宮城春樹さん=5月31日、那覇市内

 宮城春樹さん(43)が初めて公の場で半生を語った勉強会。宮城さんは初め、依頼をかたくなに断っていた。これまで、どこかGID(性同一性障害)だということから目をそらしていた。でも、友人の「自分のためになるよ。一歩踏み出せば今度は人のために何かできるんじゃない」という助言がすとんと胸に落ち、自分と向き合うことを決めた。

 宮城さんは13年前から那覇でカラオケパブを営んでいる。店を開いた頃、ある女性と交際し始めた。女性には男の子と女の子、2人の子どもがおり、一緒に暮らすうち「父親」としての責任感が増した。自然と結婚を意識するようになり、社会的にも男性として認められたいと性別適合手術と戸籍の性別変更を決断。38歳の時にタイで手術を受けた。

 「学校で私のお父さんは女だって言われた」。当時小学生だった下の子が何度か口にした言葉だ。保護者らが興味本位で話していると思うと悔しさは募ったが、本当のことは言えなかった。

 結局、事情があって女性とは結婚まで至らず、別れた。宮城さんにとって子育ての苦労や幸せを味わった6年間はかけがえのないものだ。だからこそ、もっと思慮深くあるべきだった、という悔いもある。手術を受け、戸籍を変え、どんな家族を築きたかったのか。「大切なのは目先のことじゃない」。極端かもしれないが、自信を持って生きられるなら、危険を伴う手術を受ける必要もないと思う。

 自分語りの最後、宮城さんは「『普通』とは何か」と会場に問い掛けた。「『普通』という言葉は怖い。『普通』という物差しで考え、見ることが偏見を生み出すんじゃないか」。例えば学校や職場で、何気ない会話の輪に入れない苦しさを抱えている人たちがいる。「無理にさらけ出すことはない。とにかく自分らしく堂々と生きることこそが『普通』なんじゃないか」。そう締めくくった。

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 宮城さんは同じ境遇の人に対して「一緒に頑張ろう」といったメッセージを持っているとか、社会を変えたいという強い思いがあるわけではない。取材中も「苦労は誰でもしている。俺みたいな者の話を書いてもしょうがないでしょう」と笑っていた。だからこそ、記事にしたいと思った。「性的少数者」とくくられる人たちは特別な存在ではなく、隣で生活している人、ただそれだけだ。誰もが自分らしく、ありのままに生きる。自分のためは誰かのため。その逆もまたしかり、だ。(大城周子)