識者182人国強権批判 「辺野古」「高江」で共同声明


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安倍政権の強硬な姿勢に抗議する「普天間・辺野古問題を考える会」の有識者ら=9日、東京都の参院議員会館

 【東京】有識者らで組織する「普天間・辺野古問題を考える会」(代表・宮本憲一大阪市立大名誉教授)は9日、東京都の参院議員会館で記者会見し、米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設と米軍北部訓練場のヘリコプター着陸帯(ヘリパッド)建設を巡り、強行的に工事を進める安倍政権の姿勢を批判する共同声明を発表した。同会によると、9日までに182人の有識者が呼び掛けに賛同している。

 共同声明は「沖縄の人権・自治・環境・平和を侵害する不法な強権発動を直ちに中止せよ!」と題し、沖縄選挙区の衆参両院の沖縄選挙区で辺野古移設に賛成する国会議員がいなくなったことなどを指摘し「沖縄県民の意志は、これ以上明らかにしようがないほど、明らかである」と強調。北部訓練場のヘリパッド建設については東村議会や県議会が反対決議をしているにもかかわらず強行していることに触れ、「法治国家にあるまじき強権発動だと言わざるを得ない」と断じた。

 声明文は(1)これ以上基本的人権の蹂躙(じゅうりん)を続けさせてはならない(2)沖縄の自治と自立の侵害は許されない(3)貴重な自然環境を破壊してはならない(4)沖縄、日本、アジアの平和を脅かしてはならない―などと訴え、沖縄が過重な基地負担を抱えていること、地方自治の侵害、環境面などへの影響を多角的に指摘している。

 同会の宮本代表は「安倍首相は盛んに民主主義、法治国家、環境先進国・日本と言っているが、それと反対の行為が沖縄で行われている。今高江で行われている暴力的な制圧を見ていると、沖縄をいったい何と考えているのか。植民地の如く、日本国憲法を無視した行為が続けられている」と安倍政権の姿勢を批判した。そのほか、高江を訪れた香山リカ立教大教授と中杉喜代司弁護士が現状を訴えた。寺西俊一・一橋大名誉教授、西川潤早稲田大名誉教授、小森陽一東京大教授、岡田正則早稲田大教授、礒野弥生東京経済大教授らも出席し考えを述べた。

◆「普天間・辺野古問題を考える会」共同声明 全文
 9日に有識者らで組織する「普天間・辺野古問題を考える会」(代表・宮本憲一大阪市立大学名誉教授)が発表した声明文は次の通り。

 「沖縄の人権・自治・環境・平和を侵害する不法な強権発動を直ちに中止せよ!」

 私たちは、沖縄の辺野古米軍基地建設をめぐる問題に重大な関心を寄せ、昨年(2015年)4月1日付けで「〈緊急声明〉辺野古米軍基地建設に向けた埋立工事の即時中止を要請する!」を公表し、全国から寄せられた8000名を超える賛同署名と併せて、同年4月27日、内閣府に直接提出した。以来、1年以上が経過しているが、その後も安倍政権は、私たちの要請を完全に無視したまま、辺野古米軍基地建設に向けた強権的な対応を取り続けている。

 他方、今年6月の沖縄県議会選挙、さらには7月の参議院選挙において、辺野古米軍基地建設に強く反対する沖縄県民の総意が、再三にわたり、極めて明確な形で示されている。とりわけ参議院選挙における沖縄選挙区では、辺野古米軍基地建設に反対する候補が大差で当選し、沖縄担当の現職大臣を落選させた。これで、衆参両院とも沖縄の選挙区選出での辺野古基地建設賛成議員は一人もいなくなった。名護市長選挙、沖縄県知事選挙の結果とも合わせ、沖縄県民の意思は、これ以上明らかにしようがないほど、明らかである。

 にもかかわらず、参議院選挙の直後、安倍政権は、県外からの機動隊500人を投入して、米軍北部訓練場がある東村高江でのヘリパッド(オスプレイ着陸帯)建設工事の再開を強行し始めた。高江は人口150名ほどの小さな集落で、既設の2カ所を含め、6カ所ものヘリパッドに囲まれることになるため、地元では粘り強い反対運動が展開されてきたところである。すでに完成したN4というヘリパッドには頻繁にオスプレイが飛来して低空飛行が繰り返され、夜間の10時すぎにも実施される飛行+訓練によって地元住民の安眠が奪われ、暮らしが脅かされている。加えて、生活道路である県道70号の封鎖、反対運動のテント撤去、立木無許可伐採、金網設置などが矢継ぎ早に強行され、あたかも「緊急事態条項」を先取りする無法な工事が強権的に進められている。高江の工事は、辺野古基地建設と同じく、1996年の日米SACO合意での北部訓練場返還に伴い計画されたものだが、東村議会、沖縄県議会の反対決議にもかかわらず強行されたことは、「地方創生」といいながら地方自治を無視する安倍政権の尊大な態度を鮮明に表しており、辺野古工事強行への布石ともとれる。こうした態度と行為は、沖縄県民が示した明瞭な意思を無視し、それに挑戦し、侮辱するものである。およそ民主主義にもとづく法治国家にあるまじき強権発動だといわざるをえない。

 私たちは、日本およびアジアの未来にかかわる重大な問題として、この間の事態を深刻に憂慮している。とりわけ、以下に述べる四つの観点から、沖縄に対する安倍政権の強権発動に強く抗議し、このような対応を直ちに中止することを求め、ここに、改めて〈有識者共同声明〉を公表するものである。

 1.これ以上、基本的人権の蹂躙を続けさせてはならない
(1)沖縄では、1972年の日本復帰以降に限っても、米軍基地関係者による刑法犯罪事件が6000件近くも多発してきた。これに追い討ちをかけるように、去る2016年5月、米軍属による残虐な女性暴行殺人事件が新たに発覚した。米軍基地の存在が、沖縄の人々の安全と基本的人権を脅かしている。翌6月19日には、那覇市内で県民大会が開かれ、6万5000人もの人々が集まり、今後、このような痛ましい事件がなおも引き起されることがないよう、強く抗議している。
(2)この間、辺野古米軍基地建設反対、および、高江ヘリパッド建設反対の抗議行動を行う市民に対しても、県外から動員された機動隊員による強圧的な排除行為によって多数の怪我人が続出している。これ以上、こうした沖縄での基本的人権の乱暴な蹂躙(じゅうりん)を続けさせてはならない。

 2.沖縄の自治と自立の侵害は許されない
(1)2015年10月13日、翁長沖縄県知事は、「第三者委員会」による検証結果報告書を受けて、「公有水面埋立法」にもとづく仲井真前知事による辺野古埋立承認の取消しを発表した。これは、同法および「地方自治法」にもとづく翁長県知事の当然の権限行使である。ところが、これに対し、防衛省沖縄防衛局が「私人」になりすまして「行政不服審査法」にもとづく「承認取消し」の取消しを求める審査請求、および、「承認取消し」の効力を止める執行停止の申立てを行い、国土交通大臣が即座に執行停止を決定するという異例の事態になった。その後、国と県が争う3つの訴訟と「国地方係争処理委員会」を舞台とした攻防が続いてきたが、一時的な和解・協議のあと、去る7月22日、安倍政権は、さらに翁長沖縄県知事を相手取って違法確認訴訟を起こすに至っている。この判決が9月16日に予定されているが、裁判所には、戦後憲法で保障された地方自治の本旨、および、国と地方の対等な関係と国による違法・不当な関与に対する地方の不服争訟権を明示した1999年の「地方自治法」改正の主旨を踏まえた適正な判断が求められている。
(2)去る8月3日に安倍政権の第3次改造内閣が発足したが、その後の記者会見で、続投となった菅官房長官は「基地問題の進捗が沖縄関係予算に影響する」と述べ、新たに沖縄担当となった鶴保大臣もそれに同調する発言を行った。これは、いわゆる「リンク論」だが、地方自治と地域の自立的発展を保障すべき財政規律を根幹から揺るがすものである。ちなみに「沖縄振興法」では「沖縄の自主性を尊重しつつ総合的かつ計画的な振興を図る」とされており、同法の趣旨にも反する暴言である。

 3.貴重な自然環境を破壊してはならない
(1)辺野古米軍基地建設に向けて埋立が進められようとしている辺野古岬・大浦湾は、沖縄県の環境保全指針で「自然環境の厳正なる保護を図る区域」(ランク1)とされ、ジュゴンをはじめ絶滅の恐れがある多様な生物種が生息する海域であり、世界自然遺産の候補にもなっている。ちなみに、すでに世界自然遺産となっている知床で確認されている生物は約4200種であるのに対し、辺野古岬・大浦湾で確認されている生物は絶滅危惧種262種を含む5800種以上である。国際自然保護連合(IUCN)は2000年ヨルダンのアンマンで開いた世界自然保護会議で、「沖縄島およびその周辺のジュゴン、ノグチゲラ、ヤンバルクイナの保全」勧告を採択している。このようなかけがえのない貴重な自然環境は後世に残すべきものであり、無謀に破壊する愚行を絶対に許すことはできない。
(2)ヘリパッド建設工事が強行されている東村高江は、「やんばるの森」の一角にあり、沖縄島北部の国頭山地に広がる亜熱帯の豊かな自然環境を有している。そこには、ヤンバルクイナをはじめ、琉球列島にのみ生息し進化してきた固有種が多数見られ、独特の自然生態系が形成され、生物多様性の保全においてもきわめて重要な地域である。このような貴重な自然環境を破壊する愚行は、直ちに中止すべきである。
(3)上記の埋立工事と建設工事に関する「環境アセスメント」は、きわめて杜撰(ずさん)な手続きにもとづく「欠陥アセス」であり、到底、正当なものとは認めがたい。本来の適正な手続きにもとづく環境アセスメントのやり直しが不可欠であり、少なくともそれ以前には、すべての工事を中止するのが当然である。

 4.沖縄、日本、アジアの平和を脅かしてはならない
(1)現在、日米安全保障条約にもとづく在日米軍基地の74%が、国土面積の0・6%にすぎない沖縄に集中している。しかも、その7割が海兵隊の基地である。なぜ、沖縄に海兵隊を集中させる必要があるのか。これまで日本政府は「抑止力」「地理的優位」「一体的運用」などを根拠に挙げてきたが、それらはいずれも説得力に欠ける。実際、2012年12月、当時の森本敏防衛大臣は、退任時の記者会見で、「(普天間の移設先は)軍事的には沖縄でなくても良い」と発言している。
(2)辺野古米軍基地建設および高江ヘリパッド建設は、世界一危険な普天間飛行場の代替移設や米軍北部訓練場の一部返還に伴う再編等を建前としている。だが、実態的には、沖縄での米軍基地の一層の増強と永久固定化が進みつつある。こうした在日米軍基地強化の動きは、沖縄、日本、そしてアジアにおける軍事的な緊張をさらに高め、私たちが強く求めている平和を根底から脅かすものとなる。これからの21世紀には、戦争放棄を掲げた戦後日本の平和憲法の原点に立ち返り、在日米軍基地の縮小、とくに沖縄での過重な基地負担の根本的な解消に向けた国民的な議論と合意づくりを早急に推し進め、沖縄県民の意を対してアメリカ政府と交渉していくことが求められている。
 2016年9月9日