筋弛緩剤紛失から1カ月 「毒薬」不明のまま 確認作業の曖昧さ根底に


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毒薬の筋弛緩剤4本の行方がいまだ不明の県立南部医療センター・こども医療センター=南風原町

 沖縄県立南部医療センター・こども医療センター(佐久本薫院長)が10月14日に手術室内に保管していた麻酔用筋弛緩(しかん)剤4本の紛失を公表してから1カ月が経過した。同センターはこれまで、独自に施設内での捜索や関係者への聴取を進めてきたが筋弛緩剤の発見に至らず、窃盗の痕跡も確認できていない。現状では紛失事案として管理体制強化を軸にした再発防止策の取り組みを進めているが、「毒薬」に指定されている薬剤の行方が分からないという異常事態が続いている。

 紛失したのは手術室内の薬品保冷庫内に保管していた麻酔用筋弛緩剤「スキサメトニウム」40ミリグラムのアンプル4本。成人では20ミリグラムでも呼吸筋がまひし、生命の危機に陥る可能性がある。

紛失か窃盗か

 紛失は9月26日に帳簿と照合した際、不足があったため判明した。調査の結果、20日午後11時から26日午前10時の間に紛失しており、関係職員への聴取や手術室全エリアの確認、医療廃棄物などの確認を行ったが発見できなかった。同センターは与那原署に窃盗ではなく、あくまで紛失として届け出ている。

 紛失発覚から1カ月以上が経過したが、いまだ筋弛緩剤は見つかっていない。佐久本院長は「公表以降も鋭意調査している。外部からの侵入など部外者の関与は可能性が低く、職員が盗んだという証拠もない」と現状を説明しつつ、「9月26日以降、悪い事象が起こっていないことを幸いというしかない」と述べた。

緊張感の欠如

 「公休日が続き、現場の職員らに『休みの間に使用したのだろう』などといった思い込みが生じた。そのような確認作業の曖昧さが大きな問題に発展した」。佐久本院長は事案発生の背景についてそう説明する。

 県立病院で毒薬指定の筋弛緩剤紛失が発生したのは、2003年5月以来。直後に当該病院の関係者が筋弛緩剤で死亡する事案が発生したが、関連性は明確にならなかった。それ以降は紛失事案の発生はなく、県病院事業局の担当者は「使用本数と未使用本数が合わない場合、可能な限り探すことが徹底されている」と話し、現場が緊張感を持って対応してきたことを示した。

 同センターでの勤務経験がある男性医師は「死ぬ可能性もある薬剤で、紛失などあってはならない。緊張感が欠如していたと言わざるを得ない」と批判した。

利用者の安心

 同センターでは10月28日に予定していた秋祭りを、参加者の安全に配慮して自粛した。週に1度、病棟をチームで巡回して監視する作業も実施するなど「患者や家族が安心してもらえるよう努めている」(佐久本院長)状況だが、紛失した筋弛緩剤の行方が分からない事実に変わりはない。

 事案発生前から同センターに入院している男性は「紛失の件は病院側から説明もなく、知らなかった」と驚きつつ「点滴を使っている患者は心配するので、こういうことは二度とないようにしてほしい」と望んだ。(久場安志)