ルポ・クルーズ船入港 急増も態勢遅れ ターミナル、混乱広がる


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 大型クルーズ船の県内寄港が右肩上がりで成長し、今年も過去最高をさらに更新する前年比30%増の502回の寄港が見込まれている。クルーズ船で沖縄を訪れる観光客数も、当初は21年度までに年間25万人というのが県の目標だったが、16年時点で3倍超の約76万人に到達した。沖縄観光をけん引する好調さが話題となる陰で、現場である港の受け入れ態勢は寄港の急増に全く追い付かず、外国人観光客が到着するたびにターミナルでは混沌(こんとん)とした光景が広がる。

◇貨物バースに着岸 待合タクシー不足

ピーク時に1時間以上タクシーを待つ海外クルーズ客ら=11日、那覇港新港ふ頭船客待合所

 いくつも倉庫が立ち並ぶ那覇港新港ふ頭エリア(那覇市港町)。コンテナを運ぶトレーラーやフォークリフトが行き交い、普段は観光とは縁遠い殺風景な物流港だ。だが、若狭のクルーズ船専用岸壁の使用規模を超える大型船はこの物流港に着岸するしかなく、その際には数千人のクルーズ客が突如として船客待合所に姿を現す。

 アジア最大級のプレミアム客船「ゲンティン・ドリーム号」(15万トン、乗客定員3400人)が今月から、新港ふ頭への毎週火曜の定例寄港を始めた。11日は午後4時の到着と共に約千人が下船し、国際通りなどへの移動でタクシーを利用した。

 しかし、到着する夕刻の時間帯は市内でもタクシー需要が高く、運転手の交代時間も重なる。港で待機するタクシーの台数は圧倒的に不足し、観光客たちは足の踏み場もないほどごった返す船客待合所で1時間も足止めされる。最後の下船客がタクシーに乗り込むまで約3時間がかかった。

 いら立った客同士の罵声が外国語で飛び交い、タクシー配車を要請するタクシー協会のスタッフや、観光客の苦情に対応する通訳ボランティアなど混乱が広がる。待ち時間に業に増やして待合所から歩き出し、港に向かうタクシーを道路に飛び出して止めようとする客も見られた。

 香港から来た女性は「貨物専用のバースに着くのは知らなかった。市内へのアクセスは非常に不便だ。タクシーの待ち時間が長いので、取りあえずこの周辺を歩く」とあてのない散策へと歩き出した。

◇客対応 わずか11人 「おもてなしと言えない」

タクシーの待ち時間に業を煮やして船客待合所から歩き出し、道路上でタクシーを止めるクルーズ客=11日、那覇市港町(画像は一部を処理しています)

 「計程車請排隊(ジチェンチェチンパイドゥエイ)、市区走路往這邊(シチュゾオルワンゼビエン)(タクシーの利用は列に並んでください、市内へ歩く人はこちらへ)」。那覇市観光協会の通訳ボランティアが大声でクルーズ客にタクシーなどの2次交通利用を誘導する。

 11日午後6時、那覇港新港ふ頭の船客待合所内はタクシーの利用を待つクルーズ客でごった返していた。数千人定員の大型旅客船の受け入れを想定していない待合所は、あまりに手狭だ。そして1千人以上のクルーズ客に対応するのは、わずか11人のボランティア。待合室内の整理やタクシー乗車の手伝いで全員が対応に追われる。

 中国語通訳ボランティアの金城節さん(78)は「(県が海外観光客を)沖縄に誘致しているが、これが沖縄のおもてなしと言えるのか。観光客が本当にかわいそうだ」と訴える。

 4日に県内初入港したアジア最大級のプレミアム客船「ゲンティン・ドリーム号」(15万トン、乗客定員3400人)は、10月まで計28回の寄港を予定している。旅客船専用の那覇港泊ふ頭若狭岸壁は最大13万トン級までしか寄港できないため、那覇港新港ふ頭のコンテナターミナルに寄港するしかない。

 コンテナターミナルでは大型トラックなどの車両が頻繁に出入りし、コンテナで死角が多いなど安全確保のために歩いて通りに出ることができない。クルーズ客は事前予約したツアーバスに乗り込んで主要な観光地に直行するか、岸壁から1キロ以上離れた船客待合所までシャトルバスで移動するしかない。

 船客待合所ではタクシーに乗り換えるまでの待ち時間で長蛇の列。大型クルーズ船の多くはその日のうちに那覇を出港するため、一刻も早く観光地に出発したい観光客の中には不満を噴出させる人もいる。「なぜ那覇市内までのシャトルバスがないのか」とボランティアに質問する場面もたびたび見られた。

 ボランティアの金城さんは「貨物船専用の岸壁を使って観光客を増やそうとするのはおかしい。沖縄の魅力は消えないので、まず受け入れ態勢を整備してから観光客を迎えるべきだ」と強調した。(呉俐君)