低賃金、低所得を克服する産業を作るには? インバウンドや企業誘致頼みはNG 【貧困雇用 沖縄経済を読み解く(12)】


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 沖縄の低賃金や低所得の原因が主に労働生産性の低さにあること、それが歴史的、構造的な問題に起因していることが見えてきました。

 なお、労働分配率に関して、国民経済計算と県民経済計算を比較し、「企業の得る所得割合は全国より高く、給与への分配は少ない」との指摘があります。しかし、これらは全く別個の統計で、基礎資料や推計の方法が異なり相関関係はありません。したがって、その数値を単純に差し引きして沖縄と全国のどちらが高いか低いかを比べても意味はありません。近年、沖縄の労働分配率は全国と差がありません。実際、2001~13年度までの県民経済計算による全国(全県計)との比較において、半分以上の年度で労働分配率は沖縄の方が全国平均を上回っています。

 低賃金・低所得を克服する産業をどうつくっていくかということは、とても重要です。そのためには、国際機関である経済協力開発機構(OECD)や国際通貨基金(IMF)が「格差拡大は経済成長を損なう」と指摘していることがヒントになります。これまで見てきた通り、沖縄の相対的貧困率・ジニ係数の高さは低所得者層がとても分厚く、中間層との格差が大きいということによります。したがって、低所得者層の支援と経済成長はトレードオフの関係になく、格差を是正することにより経済成長はかえって高まるのです。

 そのためにはインバウンドや企業誘致だけに頼るのではなく、サービス業だけではない多様な職業の選択肢を増やすこと、人材の育成、起業の促進・支援を行い、格差を是正することにより「内需」を高めていく必要があります。

 沖縄県の対外収支は、14年度でマイナス19・9%という高率の収支赤字です(14年度県民経済計算)。県は国際物流拠点の形成を推し進めていますが、それに対応する輸出・移出商品をしっかりと持たなければなりません。屋嘉宗彦氏が著書「沖縄自立の経済学」などで提言しているように、対外収支の均衡化のためには、輸入・移入を減らすこと、そのためには小規模でも地道な移入代替産業などに対する積極的な支援、つまり、農水産業・地元製造業の振興、地産地消・県産品愛用への取り組みにより格差を是正し、内需を高め、同時に観光消費全体を増やし、域外、海外へ移出・輸出を展開する好循環をつくっていくことが重要です。

 労働時間と労働生産性に関しては次の点が指摘できます。

 (1)沖縄の労働時間は147・6時間、全国28位で、上位16道県が150時間を超えるのと比べると沖縄のみが労働時間が特に長いということではない。沖縄の長時間労働はここ20年近くで改善に向かっている。

 (2)都道府県ごとの労働生産性は、名目県内総生産÷県内就業者数で算出しているが、労働時間は算出根拠に入っていないので相関関係にはない。

 (3)県民所得(賃金)の低さは、労働生産性に起因しているという指摘は説得力がある。その解決には、沖縄の歴史的につくられた構造的な問題をどう克服するか、雇用政策の展開とともに、製造業などの産業振興政策に具体的にどう取り組んでいくかということが問われている。

 (4)対外収支の均衡化のためにはインバウンドや企業誘致による経済成長だけに頼るのではなく、低所得層の所得を押し上げ県内の格差を是正し、内需を高める経済政策の視点が必要である。
(安里長従、司法書士)