離職率や転職率が全国一高い理由 年齢を重ねても所得が上昇しない【貧困雇用 沖縄経済を読み解く(15)】


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 沖縄の相対的貧困率が高いのは県民の低所得者層が分厚いことによることは既に述べましたが、さらに特筆すべきは、グラフを見て一目瞭然の通り、世帯主(単身世帯も含む)の年齢層別の世帯所得階層を見ると、年齢を重ねても所得が上昇せず低所得が固定化されているということです。全国は30代で多い所得層は400万~499万円の層、40代は500万~599万円の層、50代は1千万~1249万円の層と年齢を重ねるごとに所得が上昇していくのが分かります。一方沖縄は、どの年齢階層においても299万円までの層が一番多く、その割合は30歳未満では71・8%、30代では48%、40代では40・2%、50代では41・8%、60代では58・6%とずっと低所得が固定化されているのです。

 これは全国でも沖縄のみの特異な傾向で、財政規模が似ている高知県や徳島県とも比較してみましたが、両県も全国と同様の傾向を示します。なお全国では50代で1千万~1249万円の層が増えるのは、退職金などの一時収入をもらう層が多く、30代未満に関しては100万円以下の層が沖縄より全国のほうが高いのは、学生など家族に扶養されている層が多いことによるものと思われます。

 このような実態からも分かるように、その結果、沖縄の離職率や転職率は全国一高い傾向にあります。一方で県内の好景気で、企業の人手不足感が強まっていますが(それでも有効求人倍率の全国との開きは依然とあることも留意すべきです)、多くの労働者がより良い雇用条件の職場を求めて転職していることから、沖縄の県民性などにより離職率が高いので人手不足感が強まっているのではなく、非正規雇用や雇用環境の問題、そして低賃金が固定化されているので離職率が高く転職を繰り返しているとみるべきです。

 報道も県も、県内への観光客数が過去最高を更新し続け、連続して景気が拡大していることを強調しがちです。観光の波及効果として今後、客単価を上げるため富裕層のニーズをつかみ、付加価値を高めることにより賃上げにつながるメカニズムが動き出すとの意見もあります。しかし、経済成長の富がいずれ低所得者層にも自然に滴り落ちてくるというトリクルダウンを期待するのではなく、沖縄の低所得者層が分厚く年齢を重ねても所得が増えず固定化されている構造をきちんと把握し、正規雇用への転換など雇用の質を改善するための雇用政策のほか、低所得者層に対する「直接的・重点的」な産業振興施策を含めた経済対策が必要不可欠です。
(安里長従、司法書士)