『米国と日米安保条約改定』 海外基地維持に着目


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『米国と日米安保条約改定』山本章子著 吉田書店・2592円

 若い研究者の成果に接するとき、目を見開かせてくれるのではという期待感と同時に、どの程度のものかという年長者特有の気持ちになる。今回は、読み進めるうちに、私の理解が深められていく新たな境地に至った。

 この本は、朝鮮戦争の休戦協定以後の米国のアイゼンハワー政権の対日政策を、冷戦下における軍事的な視点から、公文書によって明らかになる歴史の再構成を試みる。序論で、本の特徴は「先行研究」で触れられることのなかった補完、そして海外米軍基地の維持という新しい視点だという。

 第1章は、1950年代前半の北東アジアと、その後半の東南アジアでの米軍再編について述べ、日本に米海兵隊の配備先をめぐる米政府内での検討過程を明らかにする。第2章では、日米安全保障条約の見直し交渉の前段となる日米関係を概括し、日本と沖縄にあった米軍基地のそれぞれの役割・任務に差異が作られる過程を明らかにする。

 第3章は読み応えがある。大統領の判断で設置されたナッシュ調査団の報告書作成が、政府内での政治的駆け引きを招き、新たな日米安保条約提案を生み出した、という。沖縄について同調査団が軍事基地を一カ所に集め、残りの民間地域の施政権返還という「飛び地」返還を提言したことは、すでに知られている。

 第4章は、いわゆる安保改定の日米交渉を、沖縄、事前協議、地位協定の3つの分野から論じる。結論にて、核兵器を含め自由に使える沖縄なくして現行の日米の安保条約は生まれなかったと指摘する。

 これまでの研究で明らかにされたことが、この本から確認されたと読み取れた。もし新しい視点で分析が必要なら、米軍にとって必須である「通過権」に着目すべきだ。軍隊の配備ではなく、必要なときに使える基地の重要性だ。沖縄や日本にある基地を経由して、紛争地への米軍の展開が可能になる。前方展開のための拠点だ。ベトナム、湾岸、アフガン、イラクでの米軍の行動が、それを物語る。

 (我部政明・琉球大法文学部教授)

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 やまもと・あきこ 1979年北海道生まれ。沖国大非常勤講師および同大学沖縄法政研究所特別研究員。主な著書に屋良朝博・川名晋史・齊藤孝祐・野添文彬との「沖縄と海兵隊-駐留の歴史的展開」。

米国と日米安保条約改定ーー沖縄・基地・同盟
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