女子野球普及へ夢の1球 沖縄・西原高の金城妃月 最後の夏に特別な始球式


この記事を書いた人 Avatar photo 与那嶺 明彦
始球式でマウンドに立った西原高の金城妃月=6月24日、沖縄県の宜野湾市立野球場(又吉康秀撮影)

 高校野球の全国選手権沖縄大会、6月24日の宜野湾市立野球場で行われた1回戦糸満-西原戦で、県高野連の計らいがあり、特別な場面が設けられた。試合開始を前に、西原唯一の女子部員、3年の金城妃月(きづき)がマウンドに向かう。規定で公式戦はベンチ入りできず、1年からスタンドで応援した。初めてグラウンドに降りた思いは「うれしくて、(引退が)悲しくて」。2年半の思いを託した野球部最後の1球で、糸満打者を「空振り」に打ち取った。

 少年野球のころから慣れているはずの球場の雰囲気だが、大勢の応援団を上目に見るのは初めてだった。「下から見たら、たくさんの観客がいて緊張した」。ベンチからも「ナイスボール」と声を掛けられ、公式戦さながらの感覚を味わった。当初は男子と野球をすることに反対した母の蘭さん(38)もバックネットそばのグラウンドに降りて「観戦」。「続けさせて良かった」と喜んだ。

 中学で一度、野球から離れた。しかし、思いを断ち切れずに西原高校野球部に入り、約100人の大所帯で同校初の女子部員となった。競技力の差、周囲の視線と一つ一つが気になる「泣き虫」で保健室の常連だったという時期から、藤井智監督(41)が粘り強く叱咤(しった)激励した。152センチと小柄な金城に「堂々としてうれしかった。すごい1球でしたよ」。

 1回戦を終え、「自分を成長させてくれた」野球部は引退した。卒業後は、授業で野球ができ、野球環境が整う履正社医療スポーツ専門学校野球コース(大阪府箕面市)への進学を予定する。6月の体験入学では、日本代表や女子の強豪・履正社高で指揮を執る橘田恵監督の指導を受け、刺激を受けた。橘田氏は専門学校の監督も務めており、金城は「指導法も学びたい」と目を輝かせる。

 6月に女子プロ野球入団テストに合格した金城妃呂(ひろ)=潮平中-鹿児島県・神村学園高等部3年=とは電話やメールで連絡し合う仲だ。同年齢の選手のプロ入りに「自分も」とプロを強く意識する一方、女子野球普及のためにいつかは沖縄で教職に就きたいという。後輩のためにも「県内の高校に女子野球部をつくりたい」と願う。

 28日に兵庫県丹波市で開幕する全国高校女子硬式野球選手権には、全国の女子野球部がない高校から選手が集まる「丹波高校連合」の主力として三塁手で先発予定だ。「連合の頑張りを見せ、沖縄もそうだが女子チームが全国で増えてほしい」。まだ終わらない夏へまっしぐらに進む。(石井恭子)