沖縄が5度目の法廷闘争に踏み切った理由 辺野古差し止め提訴


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今回提訴した事について記者団から質問を受ける翁長雄志知事(中央)=24日午後5時11分、県庁

 辺野古新基地の護岸着工から3カ月。沖縄県が新基地建設阻止に向け再び「裁判」というカードを切った。今回の訴訟は、無許可の岩礁破砕行為は違法で、国が岩礁破砕をする場合は県に許可を申請するよう求めるもの。国は知事による岩礁破砕許可は「不要」との立場を変えておらず、強気の姿勢を崩していない。法廷でも双方の主張がぶつかり合う激しい論戦が予想される。

 県は今後岩礁破砕が行われることが差し迫っていると判断し、工事の進行を止めるため提訴に踏み切った。しかし、今回の裁判で仮に県の主張が認められ、県が勝訴したとしても「工事停止の決定打」にはならないとの見方が県側で大勢だ。

 仮に今回の訴訟で県が勝訴し、国が岩礁破砕許可を県に申請した場合、県は「申請されれば認めざるを得ない」(県幹部)との見方が大半だ。今回の差し止め訴訟による工事の停止効果は限定的にとどまるとの見方でほぼ一致する。にも関わらず提訴に踏み切ったのは「目の前で日々工事が進む中、何もしないわけにはいかない」(県幹部)と県民世論を意識した判断だ。

ルールを守れ

 「工事を止めるための裁判というよりは、国による違法状態を放置するわけにはいかないから起こす裁判だ。本丸ではない。ある県幹部は訴訟の意味をこう述べ「本丸は撤回だ」と、撤回に向けた助走的な位置付けだと明かす。

 県側には、そもそも今回の訴訟の原因は国が作ったとの意識が強い。国が、3月末の岩礁破砕許可の期限切れ間際に急に漁業権の変更手続きの解釈を変えてきたことが県にとっては「想定外」だった。

 県は岩礁破砕許可は前回も認めた経緯があるため、今回も「審査に時間をかけることはできても、認めないという結論にはならない。最終的には認めざるを得ない」との見解が大勢だ。県幹部の一人は「3月末の時点で国は素直に申請を出していれば良かったのに」と、言外に国による無理やりな解釈変更によって生じた“余計な裁判”との見方を示した。

 「本訴訟は新基地建設の是非そのものを問うものではない。国は守るべきルールは当然守るべきで、裁判所には、ただその当然のことを当然のごとく判示していただきたい」。県は160ページ超の訴状の最後でこう記した。今回の裁判における県の狙いはここに集約され「国の違法行為を国民の下にさらす」という意味合いが強い。

判例を根拠に

 岩礁破砕許可を巡る県の提訴と仮処分の申し立てに対し、政府は「工事を進めていくことは変わりない」(菅義偉官房長官)と強気の姿勢を崩していない。これまで通り、名護漁協による漁業権の「放棄」によって、漁業権は「消滅」したとして岩礁破砕許可は不要との立場だからだ。

 政府は水産庁にもこの認識に齟齬(そご)がないか事前に確認。1988年の仙台高裁判決で「漁業権の一部を放棄することは新たな権利の設定を受けるわけではなく、変更免許を受けなければ法的な効果が生じないものとは解されない」との判例を根拠に政府解釈を組み立てている。

 さらには知事が差し止め訴訟後には最終手段の「撤回」に踏み切ることも想定し、執行停止や損害賠償請求などの対抗手段もちらつかせている。8月にも行われる内閣改造で稲田朋美防衛相の交代がささやかれながらも「沖縄の基地政策は変わらない。辺野古も止まらない」(防衛省幹部)と強硬姿勢は引き継がれるとの見方を示した。
(仲井間郁江、仲村良太)