「首里寺工工四」観音堂にピアノ響く 〝温故知新〟古典新しく


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神秘的な雰囲気の中、新たな命を吹き込んだ沖縄民謡などを演奏する(左から)辺土名直子、大城建大郎、宮田まこと、真栄里英樹=9日、那覇市の首里観音堂

 沖縄県那覇市の首里観音堂にグランドピアノを持ち込み、琉球古典音楽や沖縄民謡をアレンジして演奏する公演「首里寺工工四」(同実行委員会主催)が7日から10日まで開催された。クラシックや琉球古典音楽など分野を超えた音楽家が出演した。「温故知新」をテーマに、伝統をそしゃくして新たな音楽を生み出した。9日の公演を取材した。

 寺が文化や芸術を守る場所でもあることから、副住職の善國乗栄さんと作曲・編曲・ピアノ担当の辺土名直子が意気投合して企画された。9日は辺土名、大城建大郎(歌三線・笛)、真栄里英樹(トロンボーン)、宮田まこと(パーカッション)が出演した。川村健一(歌三線)と比嘉雅人(ピアノ)のデュオ「ラコルド」も客演した。

ゲスト出演したラコルドの川村健一(右)と比嘉雅人

 舞台は善國さんの太鼓と読経で始まった。出演者が観音に礼をして演奏を始める。1曲目は八重山古典民謡の「鷲(ばすぃ)ぬ鳥(とぅるぃ)節」。元日の早朝に親子のカンムリワシが飛び立つ様子を歌った祝儀曲で、原曲は雄大で晴れやかな曲想だ。今回のアレンジは命のつながりや神秘に深く迫るような雰囲気も感じられた。

 「じんじん」はスリリングな器楽曲に仕立てた。大城が感情を前面に出した三線の速弾きで観客を引き付けた。

 「安波節」は辺土名いわく「子どもが親に迎えられた帰り道、どこからか三線の音が聞こえてくる」ような雰囲気に編曲した。大城が郷愁を誘う歌を聴かせた。「安波節」は歌三線の初心者向けの曲だが、ここまで聴かせることができるのかと驚かされた。「屋嘉節」も「安波節」と同様に歌持ち(前奏)の美しい旋律を生かして編曲した。鎮魂の歌が観音堂に合っていた。

 ラコルドもアレンジした琉球古典音楽、沖縄民謡を演奏した。首里観音堂が歌われている「上り口説(ぬぶいくどぅち)」では歌三線を基層に、ピアノを前面に出したアレンジが新鮮だった。

 会場内には山川さやかの絵が飾られ、寺の厳かな雰囲気と相まって神秘的な空間を生み出した。辺土名と山川は互いの作品に影響を受けているという。山川はあの世とこの世、沖縄とやまとなどのさまざまな「間(はざま)」をテーマに創作している。「ピコちゃん」という鳥のような平和の象徴や小さな無数の円といった独自のモチーフを描く。ピコちゃんが時空を行き交う絵はニライカナイ思想を表しているという。

 辺土名は「観音様の前でピアノを弾くのは味わったことのないパワーを感じた。屋嘉節では泣きそうになった。お寺に来る人に音楽を知ってもらう機会にもなればいい」と話した。(伊佐尚記)