中小企業診断士、高まるニーズ 海外販拡、IT…専門化進む


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中小企業の支援策を話し合う中小企業診断士の神谷繁さん(左)とスタッフの小橋川香織さん=1日、那覇市久茂地

 中小企業の経営状況を診断し、経営者に今後の事業展開などを助言する国家資格「中小企業診断士」の重要性が高まっている。グローバル化や情報化が進む中、海外への販路拡大を得意分野としたり、IT分野の資格も持っていたりと診断士の専門化も進んでいる。4日は「中小企業診断士の日」。

 診断士は「中小企業支援法」に基づき認定される中小企業の経営課題に助言する専門家だ。経営者の相談を受けて経営改善や販促の支援、赤字事業の再生など業務は幅広い。県中小企業診断士協会に所属する診断士は2017年6月時点で125人いる。前年から14人増加した。

■診断士だから言える

 那覇市で経営コンサルタントを営む神谷繁さんは19年前、金融機関で勤務している時に診断士の資格を取得した。14年前に独立して事務所を開設したベテランだ。当時はバブル崩壊後の不況真っただ中。県内でも経営が行き詰まる企業が相次ぎ、対応に追われた。

 診断士は企業が危機に至った要因など社内の分析に加え、企業が属する業界全体の動向や課題を幅広く調べて再生の方向性を示す。必要に応じて人員削減も提起する。神谷さんは「経営陣と社員が直接話をしても互いに本音を言いづらい。会社再生に向け、できること、できないことを一緒に考える」と役割を語る。

■業種転換が奏功

 神谷さんが診断士としてこれまでに携わった案件は約70社に上る。過去にはプリントTシャツを製造・販売する企業の事業承継・経営支援を担当した。従来、子どもの体操着など一般向けも含め幅広く事業展開していたが、観光客向けにデザインしたTシャツの販売が主力となっていたことから、神谷さんは経営の実体が製造・小売業から観光業に転換したと判断した。観光業に合わせた成長戦略を盛り込んだ事業計画を策定して新社長が経営権を獲得するのに必要な融資額を確保した。業務の観光特化と円滑な事業承継が奏功して売上高は順調に拡大し、東京への出店を果たすなど成長を続けている。神谷さんは「中小企業が課題を乗り越え、発展する姿にやりがいを感じる」と語る。

 不景気が続いた10年ほど前までは事業再生の相談が多かったが、景気が安定してくると近年は高齢化が進む経営者の事業承継や起業支援、情報技術を導入し生産性向上を目指すなどのニーズが高まっている。これに伴い、診断士と情報処理技術者の両方の資格を持つ人が県内で増加傾向にある。融資の判断材料として担保から企業の将来性を評価するスタイルへの変化が進む金融機関でも、診断士の資格取得を進める動きが高まっている。

■変化する役割

 県中小企業診断士協会の西里喜明会長は、観光業や農業、介護福祉分野など従来は生産性が低いとされてきた産業の成長産業化に向けた取り組みが重要性を増すと指摘する。「経営を見られる診断士の需要は高まる。今後は、創造性や観察力のある診断士が求められてくる」と語った。

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 県中小企業診断士協会は5日午後1時から、無料経営相談会を那覇市の県立図書館など県内3カ所で開く。問い合わせは同協会・大城朝淳事務局長(電話)080(3979)7265。