【島人の目】クレタ島の珍味VSヤギ汁


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 9月初めから半ばにかけて、ギリシャのクレタ島に滞在した。クレタ島は沖縄に似て本土から遠いギリシャ最南端の島。古代にはヨーロッパの原型を成すギリシャ文明のうちのミノア文明を生んだ土地である。輝かしい歴史の島は、食べ物がおいしいことでも知られている。新鮮な魚介料理も捨てがたいが、特に目覚ましいのは肉料理である。四方を海に囲まれた島ながら、クレタ料理は魚介よりも肉が主体である。

 クレタ島は歴史的に多くの民族の侵略を受けた。そのため島人は内陸に多い山間部に逃れ、そこを主な定住地とした。魚介よりも肉料理が発達したのはそのせいである。主要素材は豚肉、牛肉、鶏肉、羊肉。

 クレタ島第2の街、ハニアでは豚の胃や腸その他の内臓を煮込んだ珍味、パツァスも食べてみた。牛や羊の内臓も使う。僕はその料理をもつ煮込みや中身汁、あるいはイタリアのトリッパ(牛の胃の煮込み)を想像しながら注文した。

 ところが出てきたのは、内臓のエグい臭いが湧き立つ代物だった。大げさではなく吐き気を催すほどの臭味をぐっとこらえて、僕は口の中の異物を喉に流し込んだ。その後、唐辛子のエキスが詰まった激辛スパイスを大量にスープにぶち込んで、味も臭味もわからないようにした上で何とか食べ終えた。

 その体験は僕に故郷沖縄のヤギ汁を思い起こさせた。ヤギ汁の独特な「におい」は僕にとっては臭味ではない。それは強い「風味」である。しかし、慣れない人はその「におい」を風味ではなく、異臭として感じるとされる。ヤギ汁が嫌いではない僕はその感覚がよく分からなかった。クレタ島のパツァスを口にしてみて、僕は初めてヤギ汁を嫌う人々の気持ちが理解できたように思った。
(仲宗根雅則 イタリア在、TVディレテクター)