地位協定の問題議論 自治権拡大を模索 研究大会、沖縄で初開催


この記事を書いた人 大森 茂夫

 国際人権法学会(シンヘボン理事長)の第29回研究大会が25日、那覇市のタイムスホールで始まった。「琉球/沖縄と人権」をテーマにしたシンポジウムでは、米軍基地が集中することによって平時でも性暴力が頻発しているなど、沖縄の状況と国際人権法の関わりを議論した。事件・事故の捜査や環境調査の障壁となっている日米地位協定の問題点についても意見を交わしたほか、自治権拡大へ地方自治特別法の活用を指摘する意見もあった。全国の研究者ら約130人が参加した。沖縄で開かれるのは初。最終日の26日は名護市辺野古での新基地建設差し止めを求める訴訟に関する発表や、国連人権理事会の日本政府を対象とした普遍的定期審査(UPR)に関する報告もある。

日米地位協定や自治権拡大など多様なテーマを論じる登壇者ら=25日、那覇市久茂地のタイムスホール

 パネル討議では、登壇者がフロアからの質問に答えた。明田川融法政大教授は、第1次裁判権を放棄する日米間の密約に関連し、国連平和維持活動(PKO)で自衛隊が派遣されたカンボジアとの間で、裁判権が日本側にあると取り決めたことを例示。「米国に地位協定改定を訴え、自衛隊を受け入れる国の訴えにも耳を傾けるべきだ」と述べた。

 高良沙哉沖縄大准教授は軍事性暴力の被害者について「捜査権の制限など日米地位協定の弊害が被害者にかかってくる。個人に起こる被害が社会全体の被害になるのが、軍事性暴力の特徴だ」と指摘した。

 西海真樹中央大教授は日本語と琉球諸語の関係について「琉球諸語の間に相互理解がない点や、最近まで弾圧されていた歴史がある点を考えれば、琉球諸語を方言と呼ぶのはふさわしくない」と語った。

 大津浩明治大教授は先住民族の問題について「沖縄にルーツを持たない人もいる。より広く地域自治体を『エスニシティ(社会集団)』という言葉でくるむことによって『先住民ではない』と感じている人も含めて共通の土壌がつくれるのではないか」と述べた。

 大阪大大学院博士課程の宮崎紗織氏は、琉球など併合された民族が独立を主張することについて「併合された民族の場合は植民地独立付与宣言、非自治地域の文脈で言えば外的自決権を行使できる主体となる」と述べた。

 米ジュゴン訴訟の連邦地裁判決について、大久保規子大阪大大学院教授は「ジュゴンへの配慮は不十分だという裁判所の判断は示されていた」と指摘。その上で事業が進んだことにより「原告適格がない」と判断された点に「十分な対策をしなくても既成事実を重ねれば許されることになる。国際的に見て重大な懸念がある」と批判した。